37/731
37 記憶 狂気の行軍
認めるわけにはいかぬ、と知事はしつこく食い下がっていたが、自分のスケジュールが押してきたのだろう。やがて諦めて、
「必ず、十分明るいうちに県庁にお戻りください」
と、言い残してジープに乗り込んだ。
生駒と綾は、歩き難い山道を登り始めた。
そういうこともあろうかと、それなりの靴で来てはいたが、これほど暑いとは。
真夏かと思える気温。
しかも、暑さは一歩ごとに強くなっていく。
知事は、強く反対はしたものの、ジープに積んであった非常用の飲み水と食料を持たせてくれていた。
かろうじて一日分ほどだが、生駒は知事の好意がうれしかった。
立場上、反対せざるを得なかったのだろうが、内心は喜んでいたのかもしれない。
あるいは、もはや、すべてのことに諦観を抱いているのかもしれない。
知事のあの様子では、救援のために自衛隊を寄こすかもしれない。
生駒はそれはそれでよいと思った。
それに乗じて、綾を無事に帰そう。
これから向かう先は、地獄か天国か。それに、この暑さである。
少なくとも、まともに帰ってこれる場所でないことだけは確かだった。
狂気の行軍。
自分ひとりで十分だった。
この先で、どうしても確かめたいことがあるのは自分なのだから。




