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32 ホメム

 ホメムとマトの子供というのは、制度上はあるが、近年、例がないのではないか?

 イコマは探偵に食い下がった。


「聞いたことがない。そもそもマト同士の出産も、最近はほとんどないと聞いている。ホメムとマトとは……」

「さっき、非常に珍しいケースだと説明した」

「生きる世界が違いすぎる。接点がない。生きる目的が違う」

「昔流の言い方をすれば、王女と野獣だな。疑問はそれだけか?」


「待て。アントワネットというホメムのことは、なにかわからないのか?」

「今、地球上にホメムは六十七人しかいないといわれている」


 一説にはもっと多いという者もいるが、それは荒野の果てに潜む妙な亡者どもを含めてのことだ。

 逆にもっと少ない、最悪の場合は人類はすでに絶滅しているという者までいる。

 私は六十七人が妥当なところだと踏んでいる。

 そして私は、その六十七の通称名も本名もそらんじることができる。


「で、アントワネットは?」

「いない」

「どういうことだ」

「私が言えるのは、ここまでだ」


「おい、ちょっと待て。これじゃ、サリのことを何も知らないのと同じじゃないか」

「だから最初に、成果の乏しい仕事だと言った。後は自分で考えてみることだ」

「あんたが入手しているデータは、データとしては正しいかもしれないが、必ずしも真実を記載してあるわけではない。そう考えてもいいか?」

「では、今回はかなりの値引きをして三百四十クロを振り込んでくれ」



 参照したデータ、あるいは聞き込みなのかもしれないが、得た情報は間違っている。

 探偵は、言外にそういって通信を切った。





 ホメムとは、数百年以上前の世界戦争で生き残った男と女が、肉体的なセックスによって生まれた子供が最初の起源である。

 マトにもならずアギにもならずに、その後も同様に子供を生み、育て、寿命が尽きては死んでいくサイクルの中にいる、真正の人類のことである。



 その数は減少を続け、今や風前の灯といわれて久しい。

 六十七人という数字は、イコマも聞いたことがある。

 しかも、いずれも超後期高齢で、人類の滅亡は避けられないというのが通説だ。


 だからこそ、アントワネットと記載されたホメムは何らかの方法でマトの男性と接触し、自分の子を宿したというのか。

 二十数年前とはいっても、高齢の女性が?

 しかも生殖機能を失いかけたマトと?

 ありえないことではないかもしれないが……。




 イコマはホメムの姿をもう数十年以上見たことがない。

 ワールド暦五百年を祝う式典に姿を見せた背の曲がった老夫婦を、モニターで見たのが最後。

 彼らがどこに住み、どんな暮らしをしているのか、またどういう血縁関係にあるのかないのか、なにも知らない。

 彼らが「ヒト」としての、自然な血統を守り続けている人々である、ということを想像してみるだけだ。




 いや、妙だ。


 アントワネットが命を賭してまでマトの子を生んだのなら、その子をメルキトとするはずがない。

 制度上はメルキトということになるだろうが、兵士として育てるはずがない。



 たしかに現在の兵士は、実質的にメルキトとマトのみに開放されている職業。

 しかし、あまりに危険で、言い方は悪いが、しかたなく就く職業である。


 戦争のない世界になってからというもの、めったに襲ってこない散発的な敵の攻撃から街を防衛するのはもっぱらコンピューターとマシン、そして政府長官直属の貧弱な防衛軍に頼ることになり、一般兵士らの仕事は、いわば有用金属回収業者なのである。



 推測の域を出ないが、ホメムであるアントワネットは自分の子を、ホメムとして扱うこともできるのではないか。

 制度上はメルキトだとしても、記録を改竄して……。




 おかしな点は他にもある。

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