33 記憶 始めてのキス
英知の壺。
なぞる記憶は、別の場面に移っていく。
「おじさん、おはよう!」
生駒はベッドで目を覚ました。
目の前に、綾の朗らかな顔があった。
「驚いた! 朝起きたら、おじさんが寝てるんだもの!」
生駒は、まだ夢うつつから抜け出せないでいたが、綾が唇を近づけてきた。
「おねえさんに叱られるけど」
チュ。
綾との始めてのキス。
「無事生還のお祝い」
柔らかくて温かいキス。
「優は焼餅なんて焼かないさ」
「どうして?」
「どうしてって、僕らは家族だから」
「そうね!」
ひと足先に大阪に帰った綾は、生駒の帰りを待ちわびる日々が続くことを覚悟していたという。
「でも、驚いた。わずか一日で帰ってくるなんて。案外早く、おねえさんに会ったのね!」
金沢市民公園のはずれの稜線で綾と別れ、翌々日の朝には生駒は大阪に帰ってきたことになる。
「ユウに会った……」
「聞かせて!」
あの白い世界で、確かに優の声を聴いた。
彼女の体が触れるのを感じた。
まるで意識はなかったも同然だったが、あの声は確かに……。
「よかった……」
「ああ」
目的は達成されたのだ。
あの光の柱に優が住んでいる。
それを確かめることができた。
そして、会うことができた!
綾の指摘は正しかったのだ。
「本当によかった……」
優と会えて。
会いたい。
せめて居場所を知りたい。
ここ三十年、望みはそれだけだった。
優を愛している。
今までもその気持ちは揺るがなかったが、身近にいなくなるまで、こんなに胸を焦がしたことはなかった。




