318 でくの坊だといわざるを得ない
「さて、次はンドペキに視点を移そう。サリではなく、レイチェルとの関係に」
この話の中には、実際に自分が見聞きしていないことが含まれる。
ンドペキの記憶として知っていること。
指摘する者はいないだろうが、イコマは念のため、小さな噓をついた。
「僕はフライングアイを二つ、使えるのでね」
と、前もって弁解しておいた。
「ンドペキが初めてレイチェルという女性を意識したのは」
ンドペキは仏頂面をして天井を見つめている。
「例のシリー川の会談だった」
代表者レイチェルの、いわば付き人というような立場で、ンドペキは会談に臨んだ。
それは、JP01の希望、ということになっている。
それは確かなこと。
しかし、それだけだろうか。
レイチェルはなぜ、そのイレギュラーな要求を受け入れたのか。
ンドペキは一兵士。
政府の要職でもなく、防衛軍の幹部でもない。
親衛隊でもない。
ハクシュウ隊の一兵士。
しかも、ハクシュウさえ差し置いて。
誰が見ても、不自然なペア。
にもかかわらず、あの日、レイチェルはこう言っている。
私はあなたを信じています。あなたがおっしゃることを、私は信じます。
会ったばかりのンドペキの手を握ったまま。
どうだろう。
会ったばかりの一兵士に向かって最高司令官が掛ける言葉として、おかしくはないか。
それ以降、ンドペキの苦悩が始まった。
まずその第一弾。
自身の部屋の階段の前で。
レイチェルが待っていた。
彼女はまるで、ボーイフレンドの部屋を訪ねたかのように振舞った。
恋人みたいにしろとは言わないけど、もうちょっと、やさしくできないかな、などと甘えて。
それ以降のことは、枚挙に暇がない。
皆さんも、そのいくつかを目にし、耳にしたことだろう。
そして、ついに……。
それはまだ、数時間前のこと。
レイチェル騎士団がシェルターに立て篭もっている可能性が高い。
それを知りながら、レイチェルはその救出あるいは合流作戦にゴーサインを出さなかった。
それどころか、ンドペキの家族はどんな人たちだったの、今も連絡を取り合ってるの、などと言ったのです。
まるで、あなたと一緒にいたい、と言わんばかりに。
このレイチェルの一連の態度。
これが何を意味するのか、もう解説する必要もないでしょう。
あえて申し上げるなら、ンドペキはこういう面で、でくの坊だといわざるを得ない。
さすがにスジーウォンはンドペキの顔色を見たが、当の本人は黙ったまま、今度は目を閉じている。
言いすぎだとは思うが、イコマはこの点でンドペキのふがいなさ、つまり自分のふがいなさを責めないではおれなかった。
昔の自分と同じではないか、と。
「一方、街の噂に、クローンが製造されている、というものがあった。チョットマがライラから聞いてきた話だ」
イコマは再び、ここで間をおいた。
これから話すことは、多分に想像を交えた話になる。
仮説どころか、脆弱な憶測でしかない。