313 俺達の仕事が終ってからにしてくれ!
「負傷兵を確認しろ!」
ンドペキの指示が飛ぶ。
「全員無事!」
すぐに声が返ってくる。
どの隊にも、かすり傷ひとつ負ったものはいなかった。
「パッキー! スジー! 敵陣を確認しろ! 生きている者があれば捕捉しろ!」
チョットマはまだそこに立ち止まったままだった。
振り返ると、岩の上に仁王立ちになったンドペキの姿。
完全な勝利だった。
胸に込み上げてくるものがあった。
戦闘に勝利した喜びなのか。
とうとう本気で人間同士で殺し合いをしてしまったことのプレッシャーなのか。
それを、今頃になって感じたからなのか。
はたまた、単に緊張感がほぐれてきただけなのか。
ジワリと身体中に血液が流れていることを感じ、汗が流れた。
ゆっくりと長い息を吐き出した。
「なにもない!」
パキトポークから報告があった。
「見事に消滅している!」
「幅一キロ、深さ百メートルほど! 巨大クレーター!」
「底の岩が溶けている! まるで溶岩プール!」
ストン!
パリサイドがンドペキの脇に降り立った。
「支援を感謝する」
ンドペキがオープンモードで言った。
パリサイドは、ひと言ふた言ンドペキにささやくと、飛び立った。
ンドペキが、パキトポークとスジーウォンに命じた。
「周辺も探索しろ!」
「了解!」
「みんな! よくやった!」
ンドペキが叫んだ。
「幸先のいいスタートが切れたぞ!」
その通りだった。
アンドロとの戦いは始まったばかり。
困難はこれから。
緒戦を制したことで意気は上がるし、敵軍の戦闘力をかなり削減したことになる。
「今のパリサイドは、俺達が圧倒していたと言った」
「おおおっ!」
「当方にひとりの死者も出さないために、助太刀したということだった!」
隊員達から雄たけびが上がった。
「JP01だったのか?」
聞いたのはコリネルス。
ンドペキはすぐには応えなかった。
チョットマはなんとく嫌な予感がした。
そして、その予感は的中した。
「いや、KC36632だった」
「なに!」
たちまち、そんな声が聞こえた。
「なぜ!」
ロクモンの発した疑問も、後が続かなかった。
KC36632なら、なぜ捕らえなかったのか、と言いたかったのかもしれない。
しかし、それは無理だと見せつけられたばかりだ。
巨大な攻撃力を。
たったひとりのパリサイドの力。
巨大クレーターを生む力。
とても、捕らえることなどできまい。
「KC36632は、レイチェルが刺されたことを知っていた」
ンドペキの言葉に、再びロクモンが反応した。
「それは」
当然ではないか。
しかし、その声も発せられることはなかった。
ンドペキが、
「彼女がレイチェルを殺したんじゃない」と、言ったからである。
「おい! そんな話は、俺達の仕事が終ってからにしてくれ!」
パキトポークの怒鳴り声が聞こえた。
戦勝気分は吹き飛んでしまい、チョットマは強烈な不安を感じた。
ンドペキが断言した言葉が意味することは、明白だった。
ンドペキも、あれはサリだったと思っている!
クレーターの周囲にも、敵軍の生き残りはいなかった。
「洞窟へ!」
ンドペキの言葉に、隊員達が撤収を始める。
軽口を叩く者もいたが、まるで敗戦だったかのように、総じて沈鬱なムードが漂っていた。
チョットマはンドペキに声を掛けたい衝動に駆られたが、口を開けばサリという名が出てくる。
黙って後ろに従うしかなかった。




