309 あんたは振られたんだよ
「パーティにご案内しろ」と笑顔のンドペキ。
数名が念のために洞窟の入り口に向かったが、結局すぐに戻ってきた。KC36632を伴って。
KC36632は、大広間に入ってくると、眩しい照明に少し目を細めて周りを見渡した。
拍手が沸いた。
感謝の言葉も投げかけられる。
目が合った。
KC36632はいつものようにサリの顔。
フワリとした東洋的な衣装を身につけ、その下に兵士用のブーツをはいている。
微笑むチョットマにかすかな笑みを返すと、水辺に向かって歩きだした。
水辺にはレイチェルが立っていた。
少し離れて控えているロクモン。
ふたりともパーティを楽しめないのか、笑みはなく、飲み物を手にンドペキを睨みつけていた。
フン。
あんたは振られたんだよ。
スゥだってさ。
私もね。
チョットマはレイチェルにそう言ってやりたかった。
KC36632は躊躇なくレイチェルに近づいていった。
誰もそれほど関心を示さなかった。
ンドペキは、KC36632にワイングラスを掲げてみせたが、KC36632の方も軽く会釈を返しただけだ。
レイチェルが歓迎の表情を見せている。
チョットマは、背を向けたKC36632から目を離し、アヤと話し始めた。
「もうすっかり良くなったみたい!」
アヤは笑って、「もう1ヶ月ね。ありがとう」
こうして大広間に出てきたのは、今夜が初めて。
松葉杖姿。
椅子に座っているのは、アヤだけ。
そのことが、彼女だけは特別。そんな雰囲気を醸し出している。
隊員のひとりが、アヤが使いこなせる浮遊装置付きの義足を開発しようとしているが、まだ実用化には至っていない。
「楽しみにしてるの」
その義足を装着して、一緒に行動できる日が楽しみでしかたがないのだという。
背後で怒声が。
「捕り押さえろ!」
振り返ると、ハワードが血相を変えていた。
テーブルを乗り越え、食べるものが散乱した。
ボトルが割れ、いやな音をたてた。
なに!
なんだ!
えっ!
誰を!
「こいつは!」
ハワードが怒鳴ると同時に、KC36632の姿が消えた。