305 約束とは、そのことだったのだ!
「私、私、ユウ」
んっ!
スゥの発した言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「私、三条優」
「な……」
ンドペキもイコマも、言葉が出てこなかった。
「私はユウのクローン。そしてマトになった。ンドペキと同じ」
「なんっ!」
「ユウ、つまり私、ノブのクローンを作ったとき、ただではすまないと思った。自分の身がどうなるかわからない。自分のクローンも作っておかなければ、将来の再会は果たせないかもしれない」
「な、な……」
「私とユウは、ンドペキとノブの関係と同じ。記憶を共有し、思考も同期している」
ンドペキにとって、それは自分がイコマであるということを知った驚きと、同じくらいに鮮烈だった。
しばらく、声も出なかった。
スゥはもう泣いてはいない。
「きっとまた会える。そのときは、どんな状況であっても、まず最初にキスしようねという約束」
約束!
そうだ!
思い出した!
サリの捜索のとき、川のほとりでスゥと始めて会ったとき!
スゥは、約束を守らないとは、と言ったのだった!
約束とは、そのことだったのだ!
「スゥ、かえすがえすすまなかった。あの川原で、そして、洞窟に初めて連れてきてくれたとき……」
「うん。もういいのよ。私自身、本当はそんな約束のこと……、ううん、私……」
再びスゥの目が潤む。
「ノブのことも忘れてしまってたんだから」
握った手に力がこもった。
「私、どうしようもない人間。マトになったときから、本当はノブのこと、忘れてたんだから!」
またもや、六百年前の話。
それがどうでもいいというわけではないが、スゥは今の俺が好きになった人!
やめてくれ……。
もうそんな話は……。
元はといえば、という台詞は、ことスゥに関しては当てはまらないで欲しかった。
「ユウである私は、自分のクローンを作った。将来、どこかでノブと再会するために」
もう話さないでくれ!
もう、いいんだ!
俺は、今のスゥが好きなんだ!
しかし、無情である。
スゥは、いやユウにとって、話さないでは済まされないことなのだ。
「ところが、私はミスをしてしまった……」
肩を震わせるスゥを今ここで抱きしめたいと思った。
そしてキスしたいと思った。
それが約束だ、と思った。
「当時のアギやマトの製造技術は未熟だった。だからクローンは、かなり若い、そう、最初にノブと出会ったころの自分として作った。そうすれば、技術が進んで正確な私が作られるようになってからマトになればいい、と思ったから」
「スゥ、キスしよう」
「うん」
短いキスを交わしたスゥは、思いつめた者の目をしていた。