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30 記憶 狂気の行軍

 翌朝、金沢の市街地もそろそろ果てかというあたりまで来たとき、知事はジープを止めた。


 街の中心部からどれほども来ていない。

 低い丘陵の中腹。光の柱はまだかなり先である。

 その遠さに、生駒は騙されたようにさえ感じた。


 しかし知事は、さっさと車を降り、旅行会社の添乗員よろしく解説しようとする。

「ここからご覧になるのがよろしいでしょう」


 舗装道路は行き止まりになっていて、この先は石ころだらけの山道が細々と続いている。


「ここはかつて市民公園があった場所でしてね。展望台もあります。荒れ放題ですが」


 付近は公園というには似つかわしくなく、木がまばらに生えているだけだ。

 枯れてしまった木々も多く、殺風景で荒涼としていた。


 そして暑かった。

 とても二月とは思えない気温だった。

 赤外線ストーブの前にいるように、コートに中にじわりと汗が出ていた。




 光の柱。

 灰色の空に一筋の白い光。


 数多の写真や映像で見ていた通り、光は力強く空に突き刺さっていた。

 ただ、光は見えたが、山や木々が視界を遮って、その根元の辺りは見えない。

 それが近くにあるのか、あるいはどれほど遠くにあるのかさえ、よく分らなかった。


 巨大な光であることは分ったが、遠近感がつかめず、もどかしい。



「この先へ行ってみます」

「この先は政府の指示によって、許可が必要です。単に見物というだけでは許可はおりません」


 知事は血相を変えて引きとめようとする。

 だが、生駒の信念が変わらないと悟ると、親切心は薄れていき、やがて怒りの形相に変わっていった。


「では、ここから徒歩で県庁までお戻りいただくことになりますが、それでもよろしうございますか」

「もちろん。お手を煩わせまして。ご親切、ありがとうございました」



 認めるわけにはいかぬ、と知事はしつこく食い下がっていたが、自分のスケジュールが押してきたのだろう。やがて諦めて、

「必ず、十分明るいうちに県庁にお戻りください」

 と、言い残してジープに乗り込んだ。




 生駒と綾は、歩き難い山道を登り始めた。

 そういうこともあろうかと、それなりの靴で来てはいたが、これほど暑いとは。

 真夏かと思える気温。

 しかも、暑さは一歩ごとに強くなっていく。



 知事は、強く反対はしたものの、ジープに積んであった非常用の飲み水と食料を持たせてくれていた。

 かろうじて一日分ほどだが、生駒は知事の好意がうれしかった。

 立場上、反対せざるを得なかったのだろうが、内心は喜んでいたのかもしれない。

 あるいは、もはや、すべてのことに諦観を抱いているのかもしれない。


 知事のあの様子では、救援のために自衛隊を寄こすかもしれない。

 生駒はそれはそれでよいと思った。

 それに乗じて、綾を無事に帰そう。

 これから向かう先は、地獄か天国か。それに、この暑さである。

 少なくとも、まともに帰ってこれる場所でないことだけは確かだった。


 狂気の行軍。

 自分ひとりで十分だった。


 この先で、どうしても確かめたいことがあるのは自分なのだから。

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