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3 タブー

「サリ」

「なに?」

「帰ったら食事しようか?」



 他人を食事に誘う。

 それは、きわめて稀な出来事である。

 現に俺は、過去に誰かと食事を共にした記憶はない。

 ヘッダーやゴーグル、そしてマスクを外し、皮膚を見せ、機械を通さない生の声を聞かせる。

 とてもできることではない。

 口の部分だけ開いたマスクも市販されてはいるが、まともに使える代物ではない。 



 サリは応えない。

 聞こえなかったはずはない。



 作戦中の会話は、通常、キュートFモードを使用する。

 音声と文字データで、半径百キロ程度にいる部隊内全員に送られる。

 戦闘中は音声を聞き分けられなくなる場合が多いので、文字もゴーグルの中に流れる仕組みだ。


 キュートモードという文字データのみ、近接した特定の相手と話す違法なモードもあるが、俺はいつものようにFモードを使っていた。

 キュートモードを使えば、サリに不審に思われるかもしれなかったからだ。

 当然、Fモードでは、隊員の誰かに聞かれているだろうが。




 どこまでも続く同じような景色。

 灰色の汚れた世界が延々と視界を覆っている。

 有機物が失われた大地は、薄いサーモン色をした砂塵を絶えず巻き上げている。


 俺達は一定のスピードで走っていた。

 アドホールまでの行程半ば辺り。

 瓦礫の街を過ぎ、原野に入っている。

 ところどころに建物の跡やタンクのようなものはある。

 かつては豊かな農地が広がっていたのかもしれないが、数百年の間放置されて、今は荒地にも育つ植物がところどころに貧弱な群落を作っているだけ。


 前方に山並みが見えてきた。



 ゴーグルのハイスコープモードを変えれば、山並みの細部まで、場合によっては山肌に潜む敵の姿も認めることはできる。

 その反面、足元がおぼつかなくなる。

 グレードのより高いブーツを装着すればさらに高度を上げることができ、接地タイプのマシンからの攻撃を避けやすくなるが、それではエネルギー消費が大きくなり、結局は搭載するものの重量増加を招く。



「見えてきた。アップット高原」

 俺は、どうでもいいようなメッセージをサリに送った。


 食事に誘う。

 これは事前に考えていたアイデアではある。


 サリの心に隙が生まれるのではないか。

 隙は生まれないとしても、集中力を欠く一助にはなるのではないか。

 そう考えた。


 しかし、万一この種の会話も当局に傍受されているとすれば、こいつの死因を調査するとき、俺が容疑者として挙げられる可能性はある。

 そう考え直して、このアイデアを中止したはずだった。

 

 ところが俺は、声を掛けてしまった。

 自分の心を分析することはできない。

 それほどの知能を持ち合わせてはいない。


 計画は若干狂ったかもしれないが、万一、俺の犯行がばれたとしても、主目的が達成されればそれはそれでよい。

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