表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
297/325

296 お嬢ちゃん。挨拶は終わり

 予想通り、ライラは満面の笑みで扉を開けた。


 そしてやはり、前置きなしに、例のタブレットの作り方を教えろと迫った。

「まさか、魔法じゃないだろ。製造方法があるんだろ」


 しかしスゥは、ライラの要求をばっさり切り捨てる。

「盗み聞きするとは、サキュバスの庭の女帝も落ちぶれたものね!」

「なにを言う! あそこで夫を偲んでいて何が悪い!」

「やはりね。どこに隠れてたの?」

「ふん! 夫はあれでも技術者。あれだけの装置があるんだ。通気口を作り忘れるほど、ボンクラじゃないよ」

「ふうん。じゃ、今から、あなたの記憶を消す。言い残すことは?」

「なに!」

「記憶を元通りにするのが簡単なことなら、消すのも簡単なこと」



 ライラも百戦錬磨。

 これしきの脅しには、ひるむ様子もない。

 美しい髪のセットに手をやって、

「そうか。それならその方法も教えてもらおうか」と、のたまう。

「バカも休み休み言ったほうがいいと思うよ。なぜ、私があんたに教えなくちゃいけないんだ?」


 ライラはフライングアイをチラリと見て、

「イコマかい? それともンドペキかい?」

 と、唇の端をゆがめた。


「たとえ、東部方面隊の隊長でも、その姿じゃ、あたしにかすり傷ひとつ負わせられないだろうね」

 憎々しい目を向けて、椅子に座った。



「さあ、お嬢ちゃん。挨拶は終わり。お食べ」


 テーブルの上に、マンゴーがカットされて盛られてあった。

「珍しいだろ。こんなに色が濃くてみずみずしいのは。毒入りマンゴーじゃないし、魔法のマンゴーでもないよ。正真正銘、さっき市場で買ってきたばかりのマンゴー」

 スゥも手近な椅子に座ると、オレンジの果実にフォークをブスリと突き刺した。




「あたしゃ、あのタブレットをみんなに配りたい」

「で、たんまり儲ける」

「うんにゃ。マトやメルキトが記憶を取り戻せばいいと思う。どうせ、もうすぐ死ぬ。いい思い出を枕に死なせてやりたいと思わんか」


 ライラもマンゴーにかぶりついた。

「命はアンドロに握られている。彼らの指先ひとつで消去させられる。逃げ場なんてない」


「ここがあるじゃない。それに洞窟も」

「フン。いつまでも持つわけじゃない。第一、街に人っ子一人いなくなったんじゃ、この地下であろうが、洞窟であろうが、半年も持つまいて」


「アンドロ軍に負けると思ってるのね」

「ふん。勝てるものか。何しろ連中の本拠は別次元」

「そこで相談なんだけど」

 スゥがふたつ目のマンゴーにフォークを伸ばした。

「これ、おいしいね」



「オーエンと旦那様に、協力を頼みたいのよ。彼らが次元の入り口を作ったんでしょ。それなら閉じることもできるんじゃないかと思って」

 ライラがぎろりと睨んだ。

「次元の入り口を維持するのに、莫大なエネルギーが使われている。それを止めればいい。オーエンやうちのやつに協力させる必要もないさ」

「でも、そのエネルギー自体がアンドロに支配されてるんだから」

「ハハ。その通り」



「それにね、ライラ。あのエーエージーエスを通れば、政府機関の中枢に攻め込むことができる。アンドロを一掃すると同時に、次元の入り口を閉じてしまえば、こちらにも勝機があるんじゃないかな」

「さあ、どうかな」

「少なくともニューキーツでは、勝てるかもしれない」

「他の街はどうする」

「他の様子はどう?」

「正式な発表なんてどこにもない。あくまで噂レベル。アンドロ軍によって陥落した街もあるそうだ」

「え、そうなの。それじゃ、やはり次元の入り口を閉じるしか手がないじゃない」



「さあてと」

 ライラが気のない返事をする。


「もしかして、ライラ」

「ん?」

「人類が滅びてもいいと思ってる?」

「いいや」

「パリサイドを押さえ込めるのは、アンドロしかいないと思ってるとか?」

「うんにゃ」

「じゃ、どうしてオーエンと旦那様に協力してもらおうと思わない?」



 ライラがそのあたりに唾を吐き散らすかのような顔をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ