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294 誰かの恨みが爆発して

 ハワードは入ってくるなり、

「お願い事があります」と、切り出した。

「洞窟に伺いたいと思います」


 イコマはこれまで、洞窟の出来事は話していない。

 どう応えるべきか迷っていると、ハワードが膝を乗り出してきた。



「彼女に会って話がしたいのです」

「何を?」

「お見舞いを言いたいのです。それに、レイチェル長官にも会いたいのです」

「会いたい?」

「理由をここではお話しできません。しかし、洞窟ではお話しできるでしょう」



 イコマはカチンと来た。

「迷惑だな」


 イコマの中のンドペキが、そう反応した。


「洞窟は戦地だ。その本拠だ。そんなところで、うろうろされては困る」

 あえて、アンドロが、とは言わなかったが、それで十分通じるだろう。



 しかし、ハワードは意に介す様子もない。

「お邪魔になるようなことはしません」

「断る」



 ハワードは、洞窟の位置も、そこにレイチェルがいることも知っている。

 軍だけでなく、もはや一般人にも知れ渡っているのか。


 ふと思いついたことがある。

 もし、街の人々が押し寄せてきたらどうすればいいのだろう。

 エリアREFに多くの市民が潜り込んでいると聞く。

 ハワードに続けとばかりに、市民が保護を求めてきたら、どうすればいいのだろう。


 やはり、ハワードの希望を叶えるわけにはいかない。



「あんた、それは厚かましいんじゃないか。自分の希望だけで勝手なことをされては。困る人も大勢いる。そこは考えてもみないのか」

「イコマさん。お言葉ですが、本当にそう言えるかどうか、バードさんやレイチェル長官に確かめてくれませんか」

「なに!」

「きっと彼女達はオーケーと言ってくれるはずです」

「なにを勝手な!」

「ですから、彼女達に確認してください」



 なんだ、レイチェルに会いたいとは。

 おまえは、情報部局の一職員ではないか。


 レイチェルは雲の上の存在で、話しかけることもままならないと言っていたのは、おまえだ。


「断る」




 ハワードの表情が曇った。

「そうですか。残念ですが、直接出向くしか方法はないようですね」

「なに! 来るつもりか」

「もちろんです。できれば、イコマさんにもご了解を頂いた上で、と思っていたのですが」

「来るな。迷惑だと言ってるだろうが!」

「それはレイチェル長官ならびにンドペキ隊長が決めることではないでしょうか。失礼ですが、あなたに私の行動を止める権利はないはずです」



 怒り心頭。しかし、

「失礼な奴め」

 というほかない。


「では、後ほど。二時間ほどで伺います」

 ハワードは、深々と頭を下げて出て行った。





 イコマは、今あったことをアヤに伝えた。


 隠していても、奴はやってくる。

 そのとき驚かせるより、今、アヤがどうしたいかを聞いておく方がいい。


 しかし、アヤは、ふうんと言っただけだ。

「どうする? 来たら、会うのか?」

「そうねえ……。まあ、会うだけ会おうかな……」

 なんとなく曖昧だが、通せということだろうとイコマは判断した。



 アヤが溜息をついた。

「疲れた?」

「ううん。そうじゃないけど、ここ数日、胸騒ぎがするのよね」

「胸騒ぎ?」


 アヤがあっさり話題を変えた。

 ハワードのことはどうでもいいのだ。


 枕元に置いてある聞き耳頭巾の布を撫でた。

「よくわからないんだけど、よくないことが起こるような気がして」

「よくないことって?」

 もう立て続けに起きている。


 アヤ自身もそう。

 一命は取り留めたものの、レイチェルもろとも死にかけた。

 ハクシュウが死に、プリブが死んだ。

 街はアンドロに乗っ取られ、ンドペキ隊は洞窟に篭り、先の見えない状態が続いている。

 これ以上、まだよくないことが起きるというのか。




「アンドロが攻めてくるとか?」

「ううん。そういうことじゃなくて、誰かの恨みが爆発して、とんでもないことが起きる、そんな感じの……」

「恨み、か」

「なんとなく。しかも、街ではなく、この洞窟で……」




 洞窟で、という条件なら、恨みという言葉に最も近いところにいるのはレイチェルか。


 隊員達の間にそれはないと思う。ロクモンでさえ。

 レイチェルとチョットマ。

 しかし、恨みという言葉が当てはまるような強い感情ではない、はず……。


 あるいは、スゥの周辺で……。

 まさか、ハワードがその災いを連れてくる?



 何が起きるのか知りたい。

 しかし、アヤにはこう言った。


「気にしない。疲れてるんだから。取り越し苦労さ」

「そうね……」

「それに、ハワードが来ても、疲れていたら会う必要はないよ。追い返せばいいんだから」

 アヤがほのかに笑った。

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