表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/325

285 私が作ったクローンのあなた

「私は、地球に帰ってきた。それはこの前、少しだけ話したよね」

「ああ……」


 これもイコマとして聞いたこと。

 ユウの舐めた辛苦を思うと、自分の暮らしなど、呑気な子供遊園地のようなものだと思ったのは、つい先日のこと。




 しかし、ンドペキは返事をする気力を失いかけていた。


 俺がクローン……。

 俺はクローンだった……。


 そのことだけが脳を駆け巡っていた。



 ユウの話が続いていく。



 ノブはすぐに見つけられた。

 名前を変えていた。

 ンドペキという名に。

 名前を変えた。それは私のことを、忘れてしまった証拠。

 私を探し続けてくれているなら、名前は変えないはず。




「忘れるものか! 探し続けていたんだ!」

 フライングアイが叫んだ。

「そうね。それはアギとなったノブの方。ンドペキは、私のことはおろか自分のことも、すべて記憶を失くしていた」

「……」

「それでも、私にとってノブはノブ。待ってくれてはいなかったけど、地球上に存在してくれていた」




 ンドペキの思考にイコマの思考が流れ込んでくる。

 ユウ、ありがとう、と。



 ンドペキは顔を上げた。


 ユウを見た。

 忘れたことのないユウの笑顔。

 少し曇っている。

 しかし、目からは強靭な意思がほとばしっている。



「ありがとう……。本当にすまなかった」

「いいのよ。マトのシステムがそういうものやから」

 ユウの笑みが少し大きくなった。


「六百年経って、昔の自分を見失わないで生きている人を探す方が難しいよ。だからいいのよ、気にしないでも」



「どうやって探し出してくれたんだ?」

「ねえ、ノブ」

「ん?」


「アギやマト、つまりホメム以外の人の記憶って、どうやって再生されると思う? 肉体は物理的に作り出すことはできるよね。でも、脳に蓄えられたすべての記憶は、どうすれば回復できる?」

「……わからない」


「以前はね、衛星軌道上に浮かんだ英知の壷の膨大なデータベースに蓄積されていた。しかし、それにはとてつもないエネルギーが必要で、しかも消滅の危険性があった」

「……」


「人類はすばらしいことを思いついたのね。実際はアンドロかな。データベースのハードとして、海を利用することを」

「海!」

「そう。海。もっと言うと、海に繋がった水域すべて」



 ユウは、一年前に地球を訪問したパリサイドの宇宙船から、ごく小さいカプセルとして離脱し、海に落ち、そこで体を取り戻したと説明した。

 そのとき、人類のデータベースとして海が利用され始めたことを知ったのだという。


「その時の驚きは、今あなたが感じたのより、もっと強烈な驚きやったよ。だって、すべての人類の、何百年に渡る記憶が漂ってるんやから」

「うむう……」


 最初は、ごくかすかな記憶の断片が私の意識の中を掠めていくだけだった。

 しかし、そのうちにそれをしっかり受け止めることができるようになり、そして繋ぎ合わせることができるようになった。

 ついには、特定の記憶を、ある程度は探し出すことができるようになったのよ。


 そして見つけた。

 私が作ったクローンのあなたを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ