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283 やっと、わかったのね

 振り返ると、JP01がすぐ後ろに立っていた。


「ん! あっ、ああっ! ユウ! ユウか!」

「やっと、わかったのね」




 たちまちンドペキの意識は大混乱に陥った。



「あわわわわっ!」




 自分がイコマ延治イコマノブハルという人物であることから始まり、日本の大阪に住んでいたこと!


 三条優サンジョウユウという女性と橘綾タチバナアヤという女の子と、暮らしていたこと!


 自分は建築関係の仕事をし、ひとりで細々と設計図を描いていたこと!


 失踪した優を捜し求め、苦悶の日々を送ったこと!


 そして、金沢の郊外の光の柱で優と会い、大阪に送り返されたこと!





 瞬時に膨大な記憶が蘇ってきた。


「うわ! うわわわわわわっーーーー!」


「目をつぶって」

 ユウが言った。

「その方が、記憶を自分のものにできる」





 その後、ユウは戻っては来なかったこと!


 自分はアギとなり、アヤはマトとなって、さらにユウを探す日々が続いたこと!


 やがてアヤも顔を見せなくなり、長い長い年月が経ったこと!


 英知の壷に行っては、ユウとアヤを思い、心を振るわせたこと!





 ンドペキは立っていられなくなり、その場に座り込んだ。


 意識が沸騰していた。

 とめどない記憶と感傷が押し寄せてきた。

 頭を抱え込んだ。



 チョットマが自分の娘となり、サリの話を聞いたこと!


 ピクニックと称してチョットマのバックパックに入り、東部方面攻撃隊の作戦に参加したこと!


 アヤが顔を見せ、心が紅色に染まったこと!


 アヤがまたしても姿を見せなくなり、その後ハワードが尋ねてきたこと!


 チョットマしか頼れるものはいないと思い、ハクシュウに頼んでもらったこと!


 探偵からホメムであるレイチェルの苦悩を聞かされ、心が震えたこと。





「よーく、噛み締めて」


 ユウがやさしく声を掛けてくれる。

 ンドペキは目を見開いて前を向こうとした。


 石のテーブルが、ホトキンの間が、ユウの姿がぐらぐらと揺れていた。


 目を開けていられない。

 床に両手を突いて、かろうじて体を支えた。



 そして、喘ぎながらも、蘇ってくる記憶に身を委ねた。




 ニューキーツの広場でチョットマがピンク色の布地を買うのを見ていたこと!


 チョットマとともにプリブの、そしてライラの部屋に行き、ホトキンの話を聞いたこと!


 荒れ地軍の状況を上空から実況中継したこと!




「ユウ! 約束のキスをしてくれ!」


 と、喘ぎ喘ぎ言ったとたん、つい先日、大阪のマンションを模したバーチャルな部屋でユウを抱いたことが甦った。





 ンドペキはすべてを思い出していた。


 知ったのではない。

 教えられたのではない。


 自分の目で見たこと、感じたこと、考えたこととして、思い出したのだ!



 それを当然のこととして、驚くこともなく思い出している自分があった。

 一方で、驚愕している自分があった。




 冷静に今の状況を見ている自分は、生駒延治であり、チョットマのパパだった。

 そんな自分が心の中にいることに驚いているのは、ンドペキである自分だった。




「驚いたな」と、ンドペキは無理やり呟いた。

 その声に違和感を感じているのは、生駒延治である自分だった。




「無事、完了したようね」


 JP01であるユウの声。

 六百年もの間、待ち望んでいた声。


 喜びが全身を溶かしていった。





「説明して欲しい?」

「もちろん」


 ンドペキは、自分がそう言ったのか、フライングアイがそう言ったのか、判然としない感覚に襲われた。



「イコマ」

 と、呼びかけたが、自分で自分に声を掛けたような気がした。


 フライングアイが呟いた。

「こういうことになるとは……」


 その声は、今、まさに自分が発したように感じられた。




「じゃ、ノブ、ふたりともノブね。説明するよ」


 ユウが話し出した。


 ンドペキはノブと呼びかけられて、心までとろけていくようだった。

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