278 もがく心
会談は、ものの十分で終わった。
レイチェルはニューキーツの長官として、JP01に精一杯のプレゼンテーションをした。
パリサイドを受け入れるという表明だけでなく、居住地を示し、今後この地でともに暮らしていくための具体的な提案をした。
パリサイドに対し、権利と義務を提示した。
他の街との関係を説明し、街の人間の構成を説明した。
もちろん、歓迎の気持ちを表し、人々の友好的な交流についてのアイデアを提案した。
しかし、JP01の回答はにべもなかった。
では、この地の代表者があなたであることを示して欲しい、との言葉を残して席を立った。
JP01が水流に姿を消すと、パキトポークは憮然とし、ロクモンはがっくりと肩を落とした。
レイチェルとスジーウォンは目に怒りを宿し、コリネルスは黙って目を伏せた。
そしてンドペキはすべての感情を腹に飲み込み、やるしかない、と決意を新たにした。
ンドペキは会談場の大広間から全員の姿が消えるまで、黙って水面を見つめていた。
誰とも話をしたくなかった。
話をして解決する問題ではない。
街のアンドロを攻撃する。
実力行使あるのみ。
その時期をいつにするか。
考えるべきことは、もうそれだけだった。
ンドペキだけではない。
きっと、同じことがレイチェルの胸にも、パキトポークの胸にも、そしてロクモンの胸の中にも、大きくなる一方の氷の玉のようにつかえているだろう。
言葉少なく二言三言交わしただけで、潮が引くようにそれぞれの部屋に引き上げていった。
ンドペキはフライングアイを従え、ホトキンの間に向かった。
心は重い。
街に攻め入るチャンスは向こうからはやって来ない。
しかし、洞窟の我々にはもう時間の猶予はない。
勝機の薄い戦いを挑まなければならないのだ。
ンドペキの心は必死でもがいていた。
アンドロに勝つために。
隊員達をひとりも死なせないために。
そしてレイチェルを再び長官に据えるために。
イコマはひと言も発しない。
ンドペキも黙って巨岩の隙間を抜けていった。
ホトキンの間には、すでにスゥが待っていた。
そしてもうひとり、見知らぬ女。
スゥはセラミック片のテーブルに腰掛け、見知らぬ女は金属片のテーブルにもたれて、黙ってンドペキが来るのを待っていた。
自ずと、ンドペキは木片のテーブルの脇に立った。
いつもは漆黒のホトキンの間に、数個のランプが持ち込まれ、石のテーブルを浮かび上がらせていた。




