275 ンドペキは
ンドペキは。
考え込んでいた。
悩んでいたといってよい。
もちろん、隊員達にそんな様子を見せることがないよう、気をつけている。
街への攻撃は、ますます困難さを増している。
兵数は増えたが、侵攻経路であるエリアREFの住民も相当な勢いで増えている。
依然として、タールツーがこのSディメンションに姿を見せるという情報もない。
この情報はイコマの知人であるというアンドロに頼っているが、そのことも不安要素ではある。
イコマは信用できるアギであるが、そのアンドロはどうなのだろう。
イコマはそのアンドロとの関係や、どんな仕事についているかを話したがらない。
かといって、ライラやスゥには、政府機関内部の情報を掴む力はないようだ。
そのアンドロの情報に頼るしかない……。
他方、エーエージーエスに逃げ込んだアンドロ軍は鳴りを潜めたままだ。
まだあそこに留まっているかどうかさえわからない。
政府軍の別の一団、街の南のオールドキーツに立て篭もった軍は壊滅したという情報が入ってきている。
もう頼るべきは、ここにいる者たちだけ。
他の街からは何のアプローチもない。
街の噂が正しく、アンドロの住む次元がひとつだとすれば、動きが取れないというのが実情なのだろう。
そう考えるしかなかった。
パリサイドの動きも、変化はない。
相変わらず、この地域の上空を覆っている。
彼らは我が物顔に振る舞い、空はかなり暗い。
それが市民の不安を駆り立て、様々な噂を先鋭化させている。
スゥとライラに頼んで、自分達がレイチェルを救出したこと、そして、チューブで政府軍を殲滅させたのは自分達ではなくオーエンあるという噂を流してもらっているが、それがどれほど浸透したのか、わからなかった。
ただ、洞窟での暮らしは軌道に乗っている。
新鮮な食糧や衣類を初めとする様々な物資を、スゥが街で買ってきてくれ、サキュバスの庭の彼女の部屋にストックしてくれている。
それを隊員たちが持ち帰ってくる。
すべての個室には、扉やベッドが設えられた。
他人から見られる状態で、装備を身につけたまま床に転がって眠るという状態から、ようやく解放された。
ロクモンは他人に溶け込むことが上手い人物なのか、安心して見ていられる。
その兵たちも楽な仕事を選ぶような連中ではなく、すがすがしい。
やり方の違いは当然あるが、我々と衝突することもない。
監視のために、攻撃隊の隊員との相部屋としたが、それは杞憂だったようだ。
彼らは消去されることを本気で恐れていたのだ。
それはそうだろう。目の前で仲間が消えていくのを見ていたのだから。
結局、あれきり聞き耳頭巾は使っていない。
過去を知ることがスゥを知ることになるのだろうが、落着いた今となっては、それほど重要なこととは思えなくなっていた。
その時が来れば、私に任せろとスゥは言ったが、結局、あれきりまともに話もしていない。
機会がないわけではないが、自分から声を掛けることはないし、彼女からも特段のサインは送ってこない。
いずれ、きちんと話し合わなければいけないときが来るだろうが、今はまだそのときではない。
ンドペキはそう思っていた。
レイチェルは、構って欲しそうに何かと近寄ってくるが、角が立たないように注意しながら、できるだけかわすようにしている。
彼女自身は退屈しきっているのか、洞窟の外に出たがった。
消去の恐れがある以上、隊員を護衛につけてやるわけにはいかないため、そのたびに納得させるのだが、次の日にはライラの部屋に行ってみたいなどと言い出すのだった。
レイチェルとロクモンは、実はかなり仲もよかったようで、時としてふたりで話し込んでいることがある。
さっぱりした笑い声が、だれに憚ることなく聞こえてきたりする。
ンドペキはそれはそれでいいと思っていたし、むしろ、そのことを喜んでいた。
レイチェルにとって、気の置けない相手と話すことは気晴らしになるだろうし、その分だけ、自分の負担も軽減されていたからだ。