274 普段のチョットマは
普段のチョットマは、まだサリのことが気にかかっていたし、レイチェルのことも頭から離れない。
もちろん、ンドペキのことも。
最近、なんだか寂しくない?
ンドペキも忙しそうだし。
というのが、自分に向けた呟きだった。
ただ、楽しくないかといえば、違う。
洞窟暮らしもなかなかいいかも、という気がし始めている。
いくらなんでも、我ながら単純すぎるかなとは思いつつ。
自分は兵士に向いていなかったのかも、と思うこともあった。
マシンを破壊し、小さなメタルを手に入れる。
そんな暮らしを懐かしむ気持ちはあったが、もうどうでもいいとも思えた。
戻りたいとは思わくなっていた。
この十日ばかりがあまりに濃密すぎて。
今は、たいしてすることがない。
ンドペキは抜き打ちで訓練を兼ねた作戦を実施するが、洞窟から出ないのではそれほど大掛かりなことはできない。
刺激はない。
「ねえ、パパ」
パパは、どういうわけか、寝ていることがなくなった。
おかげで、好きなときに話しかけることができる。
「あのヘルシーズのバーにいた将軍、あれ、ロクモンじゃなかったよね。緊張してたから覚えてないんだ」
「ああ、違う。もっと巨大な体格の男だったと思う」
「それとさ、あのひとつ目の女の人。今頃どうしてるかな。バーも、住民が増えて繁盛してるかも」
そんな他愛もない話をしているとき、幸せを感じるのだ。
自分はまるで普通の女の子だな、と思うのだった。
「ねえ、パパ。アヤの具合はどう?」
「順調だよ。みんなのおかげだ。もう安心。食欲もあるし、話も普通にできる。まだ時々熱が出て、うなされたりしてるけど、後は日にちが経てば立てるようになるだろう」
「あ、そだ。杖を作らなきゃ」
「ありがとう。でも、もう医務隊員が作ってくれたよ」
「よし、それがちゃんとしたものか、私がチェックしてあげる」
という調子だった。
レイチェルに対する考え方も少し変わった。
なんとなくフワフワしていて、ンドペキにベタベタしているだけの女だと思っていたが、それはンドペキやハクシュウによって救出されたのだから当然ではないか、とも思えるようになった。
そのきっかけはロクモンに対するあの厳しい態度。
あの時、レイチェルの本来の日常が垣間見えた。
そして彼女のものの考え方も。
すごい人なんだ、と素直に思えるようにもなっていた。
チョットマは思うのだった。
パキトポークやスジーウォンも好きになれそうだったし、コリネルスは以前と同じように、いろいろな話を聞かせてくれる。
ンドペキも、それとなく気遣ってくれる。
撹乱作戦に参加してくれたスミソとは、冗談を言い合える仲になった。
以前は、嫌味ばかり言ってたシルバックとさえ、互いの装甲がおしゃれだとかかわいいとか言い合えるようになった。
そして、ネールも。
みんな友達?
パパが話してくれた言葉は心に残っていたが、友達って言っていいかも、と思えるようになっていた。
私の心は洞窟の中。
水流を流れて海に行く?
それとも、大空を駆け巡る?
パリサイドの脚に掴まって?
解放された心は、自由に行き先を選べるはず。
閉じこもっていては始まらない。
羽ばたけ。私の心!
歌声に乗って、力強く!
ヘルシードのひとつ目のホステスが歌っていた歌。
パパが歌詞を教えてくれた。
アジサシって鳥? どんな鳥か知らないけど、素敵な歌。
私は、雲?
ンドペキは鳥?
よく分からないけど。
あなたがいるから。
友がいるから。