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273 チョットマは。ライラとの話

 チョットマは。


 瞑想の間とエリアREFを何度も往復し、ネール達と協力してマップを完成させようとしていた。

 その中で、分かったことがふたつある。


 エリアREFには階数という概念が当てはまらない。

 つまり、通路はそれぞれに様々な角度でスロープとなっており、まるでスポンジ構造のようになっているのだ。

 地下二階だと思っていても、通路を進めばいつのまにかさらに地下深いフロアに到達しているという具合。


 もうひとつ。

 大広間と瞑想の間とホトキンの間、そしてサキュバスの庭、ライラの通路の横を流れている地下水系が、水脈として繋がっていることを確かめていた。


 そして、プリブの部屋。

 少しだけ自分好みにアレンジしていた。

 プリブが戻ってきたとき、許される範囲で。

 ホトキンの装置を復活させ、市民がREFからホトキンの間に入ってこないように細工もしていた。



 ライラの部屋を何度も訪問し、街の情報を得ては洞窟に伝えている。

 自分だけが強制死亡処分予定者リストに載っていないことを知ったからだが、それを知らなくてもライラの部屋に通うのは自分の役目だと思っていた。

 もちろん、刺客の襲撃には十分に注意して。




 ライラがもたらす情報は、変わり映えのしないものも多かったが、市民が不安を増幅させていることが伝わってくる。

 エリアREF、それも地下深くの住民の数が日ごとに増えている。

 スラムというより、一種の避難所のような空気だ。


 街で飛び交っている噂も、徐々に具体性を帯び始めている。

 タールツーの子供が次期長官につくという噂。

 生殖機能を備えたアンドロが早速、性行為にふけっているという噂。

 子供が生まれれば多額の報奨金が支給されることになったという噂。


 そして、何体かのクローンが製造されたという噂。

 クローンが街を救うだろう、という予言めいた噂までもが、まことしやかに語られているという。



 そして市民が最も震え上がった噂。

 それは、タールツーがバックディメンションを経由して、他の街のアンドロの蜂起を画策しているというものだ。


 そもそもアンドロが人間の立ち入ることができない異次元に住み、そこが街のいわば本体であるということに、市民はようやくリアルに感じ始めたのである。

 そのバックディメンションは、六十七の街ごとに分かれて存在するのではなく、実はひとつの次元であり、アンドロはひとつの巨大な街に住んでいるという。

 もし、それが正しければ、ひとつの組織体としてのアンドロが、既に地球すべてを支配していた、ということになる。

 街に住む市民は、分断されたちっぽけな村社会の住民でしかない。

 アンドロの手の中で弄ばれる、六十七のゲージに入れられたハムスターのようなもの。




 ライラは、エリアREFについても教えてくれた。

 チョットマが最も刺激を受けたのが、そこに君臨する蛇の話。


 その話は、チョットマが白い蛇を見たと話したことから始まった。


「さすがだねえ」

「何が、さすがなの」

「だって、おまえは小さな魔物ちゃんだろ」

「違うって!」

「ハハ、そうだろうとも。自分が何者かなんて、誰も気がついていないものさ」

「だから、違うんだって!」


「ここじゃ、おまえの話でもちきり」

「えっ、どんな話?」

「おまえはあの大蛇に触れた。羨ましがる者が多うて」

「大蛇? 三十センチほどの蛇だったけど……」


 チョットマは生まれて初めて蛇というものを見たのだと言った。

「チョットマよ。目に見えるものがその実態とは限らんぞ。どこで出会った?」



 プリブが殺されたときのことを話した。

「ふーむ。つまりはそやつ、大蛇を見たんだな。そして、大蛇の力を知っておったからこそ、退散したんだな」

「でも……」

「今も言ったろう。おまえが自分の目で見たからといって、それが真実とは限らぬ。真実が目の前にあってもそれに気付かないのは、目に見えたことだけが正しいと思ってしまうから」


 そうかもしれない、とチョットマは思ったが、それ以上深い思考は自分には無理だと思った。



「あれは、エリアREFの主と呼ばれている。守り神、と言う者もおるな。おまえが見たものはそのご本尊かもしれぬし、眷属かもしれん」

「そう……」

「あれがおるおかげで、ここは平穏を保っているともいえる。あたしは神など信じる気はないけどね」



 ライラが言うには、エリアREFは、外見ほど恐ろしいところではない。

 地表の街で暮らさずに、地下で暮らしたがる者もいる。

「ただ、それだけのこと。子供達のための学校まである」

「へええっ」

「いわゆる政府のハイスクールとは、違うけどね」

 驚くような話だった。


「ところで、おまえを襲った者。それ以降、危険はないか?」

「大丈夫みたい」

「あの門番をしている男に、通行料をちゃんと払うんだぞ」

「はい」

「ああ見えても、非常に強い力を持っている。下層に住む者とおまえ達以外は、絶対に通さぬよう頼んであるから、下は安全。このサキュバスの庭もな。しかし、その他の通路は誰もが自由に通行できる。気をつけねばな」

「はい」

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