27 記憶 ジープ
「どこかで食べるものや飲むものを手に入れることはできるでしょうか」
上官は、顔色も変えずに言った。
「あなた方が買い物に行くようなところはありません」
「でも、市民はどうしているのでしょう。どこかにお店があるのではないですか」
「市民、ですか。彼らに対してその呼び方が正しいとは思いませんが、彼らには彼らなりの暮らしがあります。もちろん、こんな街でも商売をしている者がいます」
「では、そこに案内をしてもらえませんか。あるいは場所を教えてくれませんか」
「今も言いましたように、私は彼らを市民だとは思っていません。この街を見てください。日本中、どこの街もよく似た有様だとは思いますが、彼らは既に暴徒と呼ぶにふさわしいでしょう」
たびたびの退避勧告も聞き入れず、街中を略奪しつくした挙句に殺し合いまで始めています。
普通の市民は、もう数年前に大阪や名古屋などの都会に避難して行きました。
私はあなた方を、そんな連中の中にお連れするわけにはいきません。
自衛官は自分の思いをぶつけるように話す。
「現在、市の人口は三千程度です。中には、この街を離れたくないことを理由に留まっている市民も一部にはいますが。あの人のように」
市民という言い方は正しくないと言いながら、この男の言葉の端々に、金沢の街を愛する気持ちが滲んでいた。
生駒は自衛隊員が指し示した方に目を向けた。
ロータリーにジープが入ってきた。
この街に来てから、というより、北陸路に入ってからはじめて動いている車を見た。
降り立ったのは、背の曲がった老人だった。
運転手はついているようで、助手席から出てくる。
杖にすがりながら、ゆっくりと駅への階段を登ってくる。
自衛官はどうするのかと思えば、表情をかすかに緩めた。かといって、助けに行くわけでもない。
安心してよい相手だが、駅前広場を監視する任務を一時放棄してまで、対応する相手ではないということだろうか。
老人が階段の半ばまで差し掛かったとき、自衛官が小声で言った。
「北陸県の知事です。金沢市長も兼任しています。この街に人が住んでいる限り、ここを離れるわけにはいかない、とがんばっておられます」
老人がもうすぐそこまで来ていた。
ようやく顔を上げ、微笑んだ。
白髪に痩身。
くたびれたジャンバーと杖のおかげで、この男を老け込ませて見せていたが、陽に焼け、なかなか健康そうだ。
やけに白い歯が、薄い唇の間からのぞいた。




