表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
267/325

266 こちらへ参らせ給え!

 翌日。


 スゥは一日中、姿を見せない。

 隊員ではないので、行動を把握しているわけではなかったし、隊としての仕事が割り当てられているわけでもない。


 ンドペキは聞き耳頭巾を試してみるどころではなかった。

「政府軍、接近!」

 洞窟内は一気に臨戦ムードになったのである。



「迫っている! 約十五キロ!」

「約七十名!」

「依然として、ハートマークの旗指物!」


 次々入る連絡を耳に、隊員たちが走り回っている。


「落ち着いて行動しろ! 決められた位置に付け!」

 ンドペキは厳しい声で伝えた。

「絶対に攻撃するな! 向こうが撃ってきてもだ! いよいよ洞窟に侵入されるときになって、初めて攻撃態勢! しかし、命令あるまで撃つな!」



 隊員がレイチェルとアヤを瞑想の間に退避させているのを確認し、ンドペキは洞窟の入り口に向かった。

 すでに、隊員達が所定の位置につき、政府軍が洞窟に近付くのを防ぐ隊形をとっていた。


「相手が少なくなったからといって、油断するな!」

 ンドペキは洞窟の入り口に陣取った。


「いよいよ、来やがったな」

 パキトポークもスジーウォンも、どことなく弾んだ声を出している。

「待たせやがって。もうちょっとで、モヤシになるところだったぜ!」




「見張り隊! 引き上げろ!」


 引き上げつつも、見張り隊から断続的に連絡が入ってくる。

「五キロ地点で停止した!」

「集団隊形を取っている!」

「敵の隊長、先頭にいる模様!」



 そのときだ。

 ンドペキの耳に聞きなれない声が届いた。


「ニューキーツ防衛軍将軍、ロクモンと申すものなり!」


 声が続く。


「レイチェル閣下とお目通り願いたく、参上仕った! お取次ぎ願いたい!」


「なんだと! 今頃のこのこ来やがって! 舐めとるんか!」

 パキトポークが怒鳴った。

 声の調子に喜びが滲んでいる。


「不届き者め!」

「目にもの見せれくれようぞ!」

 スジーウォンも同調子。

 もちろん、相手の口上を真似たジョーク。



 ンドペキも、口上を投げ返す。

「よかろう! では、貴殿のみ、こちらへ参らせ給え!」


 そして、

「レイチェルに伝えろ! 大広間へ。ロクモンをそこへ通す!」と、指示を出した。

「参られ給え、ってどこで習った? 古臭い言い方ね」

 スジーウォンが笑う。




 ンドペキは、隊員達にもう一度注意を与えた。

「気を緩めるな!」

 そして洞窟の入り口で待ち構えた。



「来ました!」

 一筋の砂埃の先頭に、ひとりの男の姿。

 旗指物がはためいている。

 本隊ははるかかなたに停止したままだ。


 男は五十メートルの距離まで近づくと地面に降り立ち、歩み寄ってくる。


「かたじけない!」


 間近に来るまで、ンドペキは何も言わなかった。

 心の中では、この男を張り倒してやりたかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ