260 打開策は、ふたつ
ンドペキは悶々とした時を過ごしていた。
チョットマとネールたちによって、街の様子は理解できたし、地下通路を伝って街に帰還する、あるいは攻め込む方法があることもわかった。
しかし、政府軍は依然としてレイチェルの書簡を信用しないばかりか、徐々に南下を始めている。
エーエージーエスのアンドロ軍は一向に出てこないし、だからといって攻め込むこともできない。
八方塞だった。
この洞窟に縛り付けられたままでは、ジリ貧になることは目に見えている。
他の街の軍が、ニューキーツのアンドロ軍を攻め落とすかもしれないが、漠然と待つことはできない。
打開策は、街に攻め込むか、再度、パリサイドに援助を頼むか。
このふたつしかない。
街に攻め込むのは、危険で、無謀な戦いになる。
背後の政府軍が僚軍として動いてくれれば、勝ち目はあるかもしれない。
万に一つという程度の可能性に賭けることになる。
翻って、パリサイドに頼むのは、もし断られても損失はない。
問題はその方法だけだ。
あれきり、KC36632も姿を見せない。JP01も。
相変わらず、空はパリサイドに覆われて暗いが、だれも降りてこようとしない。
呼びかけてみたところで、声が届いているのかいないのか、全く反応はない。
やはり、俺が出向くしかないか。
行くなら、自分が行く。
それは決めている。
パリサイドのコロニーに乗り込むことに躊躇はない。
躊躇させるものがあるとすれば、それは最も基本的なこと。
何を依頼するのかということだった。
パリサイドに街を攻撃して欲しいのか。
彼らがどんな攻撃をするのかわからないが、それは多くの市民を巻き添えにする。
しかも、アンドロ無しには街の存続はできない。
アンドロ一派の首謀者であるといわれるタールツー。
この女のみを亡き者にする方法はあるのだろうか。
また、エーエージーエスに潜んでいると思われるアンドロ軍を、パリサイドは攻撃できるだろうか。
そもそも、そこに今もやつらが潜んでいることさえ怪しくなりつつある。
なにを依頼すればいいのか。
ンドペキはスゥとレイチェルと共に、バードの部屋にいた。
普通に口がきけるほどに回復している。
最近では、レイチェルが付っきりで介抱している。
医務隊員はようやく自由な時間が持てるようになっていた。
ンドペキは、むやみにバードに話しかけたりはしない。
疲れていても無理にでも応えようとするからだし、特に声を掛ける用件もなかった。
「その足だけど、再生術は当分お預けだよ」
イコマがバードに話しかけている。
「街があの状況だから」
バードはこっくり頷くと、
「急がなくてもいいよ。でも、私が皆さんの重荷になっているかと思うと、申し訳なくて」
「気にしない。彼らは彼らなりに活動してる」
と、レイチェルがバードを安心させようとしている。
確かに、この娘は重荷だ。
その意味では、レイチェルも同じこと。
いざというときの大移動ができない。
とはいえ、そんな大転換が必要なときといえば、街を攻めるべく、ホトキンの間に移動するときだろう。
しかし、街の攻略はまだ予定にない。
ふと、思うことがあった。
スゥはエリアREFの地下に部屋を持っているという。
そこでレイチェルとこの娘を匿ってくれたら……。
しかし、さすがにそれをスゥに頼むことは厚かましい。
彼女がその案に気づいていないはずがないからだ。
そうする方がいいと判断したら、スゥはきっと自分から言い出すだろう。
ンドペキは無難な話題を出した。
「その聞き耳頭巾ってのは、どういうものなのかな?」
イコマが代わりに話してくれた。