259 大阪弁で喋ったら信用する?
わけがわからない!
「ちょい待ち!」
スゥがニッと笑った。
「これから、そう呼んでもいい?」
「いや、ちょっ、ちょっと待ってくれ。それは」
「誰かの専売特許?」
「いや、ちょ、ちょ」
「そういう慌て方って、ノブらしいよ」
「いや、だから!」
「ダメ?」
「うわっ、待ってくれ! 頼む!」
スゥがまた笑った。
「だから、私、必死でアヤちゃんを助けに行った。私たちの家族だもの。それでも、ノブって呼んだらだめ?」
「えっ、うっ、えええええっ!」
ユウ!
ユウ、なのか!
スゥははっきりとは言わないまでも、自分はユウだと言っている!
そういえば、エーエージーエスで、スゥはバードと呼ばず、アヤと叫んでいた……。
アヤちゃん、と!
「で、でも」
「でも、なに? 顔が違う? そうかもしれない」
「……」
イコマはもう一度、まじまじとスゥの顔を見つめた。
似ている。
しかし、違う。
データの中からユウの顔を呼び出しては見比べた。
出会った頃の顔。
初めてキスしたときの顔。
初めてベッドに入ったときの顔。
京都の山奥の村に行った頃の顔。
アヤと住むようになった頃の顔。
そして、部屋を出ていった頃のユウの顔。
違う。
ユウではない。
しかし、言い切れるのか!
マトなら、再生を繰り返すたびに、顔など、少しづつ変っていく!
「私が大阪弁で喋ったら信用する?」
「なっ」
「どんな場面で再会しても、どんなに年月が経っていようとも、どんなに変わり果てていようとも、必ず最初にキスしようねっていう約束。あれ、何やったんやろね……」
「ん!」
「不思議そうやん」
「……」
「なんで、私がそれを知ってるのか。なんでかって言うと、私がそう言ったからやん!」
「!!」
ユウにしか言えない台詞だった。
しかも大阪イントネーション!
「ユウ、なのか……」
じゃ、JP01は、なんなんだ!
ユウじゃないのか!
バーチャルな僕の部屋で抱き合ったのは、ユウじゃなかったのか!
イコマが次の言葉を探し出せないうちに、スゥは立ち上がった。
「さあ、そろそろプリブの部屋に戻りましょう。今日は、とってもすっきりした! 言いたかったことがやっと言えた、って感じ」
それからスゥが、ノブと呼ぶことはなかった。
大阪イントネーションも消えた。
「私の肩にとまって。それから、今の話、忘れて。アヤちゃんにも内緒」
イコマは、わかったとも、嫌だともいえなかった。
わけがわからなかった。
しかし、スゥはユウではない、と感じた。
確信は全くないが。
こいつ……、呪術師……、何を知っているんだ……。