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258 あなたも私のことを知ろうとしない

「私、あなたも愛してる」

「とっ、つっ!」


「驚いた? でしょうね。私さ、二重人格! ケケケッ!」


 イコマに口があれば、ポカンと開けただろう。



「ごめん。ケケケッというのは嘘。ちょっとからかっただけ」

「あのさあ」

「なに? まだ、私の話は終ってないよ」

「はあ」



 イコマはもうすでに疲れていた。


 こういう会話には慣れていない。

 アギに対して、こういう冗談を言う者はいない。


 そもそも、スゥとはまともに話したことさえない。

 どことなく近寄りがたい雰囲気を湛えている女性なのだ。


 しかもスゥは、ンドペキにだけは常に笑顔だが、他の者に対しては無関心。

 見ようによっては、ンドペキは私のもの、と主張しているようにも見える。




「私は二重人格。これは本当」

「……」

「でも、ンドペキを愛している自分と、あなたを愛している自分は一緒」


 イコマは混乱した。

 二重人格というなら、片方がンドペキを愛し、もう片方が他の者を愛するということではないのか。


 いや、そんなことはどうでもいい。


 僕を愛しているとは、どういうことなのだ。

 まともに話をしたこともないのに。


 それに、自分はアギ。

 フライングアイの姿以外では、スゥと会ったこともない。



 スゥ、大丈夫か……。




「狂ったのかって? そう思ったでしょ。でも、変でもなんでもない」

「どうみても変だよ。僕を愛してるって。ほとんど何も知らないじゃないか」


 イコマは、努めて穏やかに、そして諭すように言った。


「あーあ、あなたも私のことを知ろうとしない。私はあなたのことを、よーく知ってるのに」

「えっ、そうなのか?」

「そう。ずっとずっと以前から。ただ、このフライングアイがあなただってわかったのは、最近だけど」



 イコマは思い出そうとした。

 スゥがマトなのかメルキトなのか知らないが、コンフェッションボックスから会いに来ていた娘の誰かだろうか。

 イコマの記憶はシステム上、完全かつ鮮明である。

 忘れることはありえない。

 データが失われたか?

 これまでなかったことである。

 名を変えているのか。あるいは容姿が違うのか。



「すまない。思い出せない。データが失われたのかもしれない」

「違うよ。失われてなんかいないよ。だって」


 スゥは黙り込んでしまった。



「だって?」

 イコマは先を促した。



 いずれにしろ、自分をパパと呼んでくれていた人のことを忘れるとは、信じられないことだった。

 もしそうなら、ぜひ教えて欲しい。


 スゥがまた顔を近づけてきた。

 しかし、何度眺めても、記憶にないものは思い出せない。


「ダメ? 思い出せない?」

「すまない、スゥ」

「私も、再生されるたびに、少しづつ変わってきてるからなあ」

「名前を変えた?」

 顔を見ても思い出さないし、スゥという名も記憶にない。



「ううん。最近はずーと、スゥ」

「じゃ、どこの街にいた?」

「ずーと、ニューキーツ」



 ん? おかしい。

 ニューキーツの街で娘を持ったのは、チョットマが始めてのはず……。

 それに、こういう雰囲気を持つ娘は、正直に言うと自分好み。

 忘れるはずがない。

 やはりデータが失われたのだ。



「本当のことを言うとね。私もあなたのことを忘れていた。だけど、二ヶ月ほど前、まるで天啓のように思い出したんだ。すべてのことを」


 どこかで聞いた言葉だ。

 アヤと同じだ。


「私もね、あなたのことを、以前のように呼びたいな」

「呼んでみて。思い出すかもしれない」

「いい?」

「ああ」



「ノ、ブ……」

「えっ」

「ノブ!」

「ええっ!」



 なんという響き。

 そう呼ばれるだけで、あの日々が走馬灯のように蘇る。

 ノブと呼ぶのは、ユウだけ。

 しかし、スゥは!

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