256 大げさに相槌を打てば、情報料が跳ね上がる
イコマは迷ったが、スゥがまた座り込んでしまった。
そして、久しぶりに口を開いた。
「ライラ、それは私たちに関係したことね。勿体つけてないで、言ったら?」
ライラが鼻で笑った。
「フン。これはお代をいただくよ」
ライラの示した情報料は、かなりの高額だった。
「じゃ、いつものように、付けておいて」
情報とは、パリサイドに関する各街の対応についてだった。
今、全世界にある街の数は六十七。
そのうち、明確にパリサイドを受け入れると表明したのはわずか二。
拒否は十八。
あとはまだ正式表明をしていない。
ニューキーツもここに含まれる。
受け入れる街では、歓迎の祝賀会まで催したところもある。
一方で、一触即発の睨み合いに発展している街もある。
「人類も情けないねえ。こんな重要なことさえ決めるのに時間がかかる。しかも、一枚岩になれない。今、パリサイドの要求は、統一見解を出せ、ということ」
ライラがなぜか、にやりと笑った。
「ここからが本当の情報だよ。まず、ひとつめ」
パリサイドの社会では、厳格な上下関係がある。
宗教団体であったことの名残だ。
地球に帰還してきた第一陣の各部隊の長は、リーダーというような立場で、組織の中では下位の幹部という程度である。
一応は職責であるが、それらは横一列であり、いわば同僚。
街の数は六十七。従ってパリサイドのコロニーも六十七。
すべてを六十七人のリーダーの合議によって決めているという。
「地球の人類とは大違いだね。さて、ふたつめ」
一年ほど前のことになる。
パリサイドから数名の使節団が来た。
彼らは南極大陸のアームストロングに降り立った。
友好のための表敬訪問という名目である。
どんな要求もなかったし、地球側からも希望することはなかった。
わずか二日滞在しただけで、太陽系外に飛び去っていった。
だが、そのことは固く伏せられた。
神の国巡礼教団に対する嫌悪感が、まだ強いからである。
「ところで今、こうしてかなりの数のパリサイドが出現した。これはどこから来たんだ? 不思議じゃないかい?」
「なるほど、そうですね」
イコマはそう言ったが、スゥは微妙な顔を作ってみせただけだ。
大げさに相槌を打てば、情報料が跳ね上がるのかもしれない。
「その使節団は、小さな宇宙船に乗ってきたというんだよ」
「ん?」
「今回、そんなのが、数百、数千も着陸したかい?」
「勿体つけてないで。私達、急いでるんだから」
ライラは、フンと唸っただけで、解説を付け加えた。
「一年前に着陸した時点で、すでに多数のパリサイドを地球に送り込んでいた、という説がある」
使節団は見せかけの先遣隊。
人知れず、何らかの生体を、その宇宙船が運んできたというのだ。
その生体は、どこかで一年かけて成長を続け、各街に分かれて同時に会談を申し込んできたらしい。
「パリサイドは、実はもう一年も前から、地球に住んでいたんだよ」
「ほう」
「あたしゃ、きっと海の中にいたんだと思うな。海は、もう誰も見向きもしないからね」
「さて、三つめ。これが最後だよ」
「うん」
スゥの反応はあくまであっさりしている。
「パリサイドはきわめて高度な肉体構造を持っている。これは知ってるな。しかし、思考力は? 精神は? 個性は? 思想は?」
「さあ」
「様々な報告によれば、パリサイドはきわめて均一な者の集団だという。例を挙げると」
パリサイドの集団には、リーダーがひとりとその取り巻きが数人いるだけで、後は全員が等しい立場にある。
思考も思想もかなり均質なため、争いは起こらず、伝達事項は瞬時に隅々まで伝わり、統一した行動を取る。
数千人いようが百万人いようが、それは同じだそうだ。
ただ、知能が低いかというと、全くそうではない。
ジョークも言えるし、文化度も高い。
美しいものに対する執着もあるし、遊び心もある。
社会構造も単純ではあるが、洗練されている。
特に、あの高度な体を作り上げたことからもわかるように、科学に対する知見は相当進んだものがあり、地球人類が及びもしない技術力を有している。
「シリー川の会談でも、パフォーマンスを見せてくれたそうじゃないか。しかも、それを演じた女性は地球人の顔をしていた」
「ええ」
「余裕さえ感じるね。彼らの知能は極めて高度。見てくれとはかなり違う。均質な思考とは矛盾するかもしれないが、個性もある。バランスが取れているんじゃな」
情報提供は終了だ。
「最後に言っとくが、パリサイドを見くびっちゃだめだぞ」
「わかったわ」
「数日前、北の荒地で、ひとりのパリサイドが地上に降りたそうだ。すぐに飛び立って上空の仲間と合流したが、それが何を意味するのか、誰にもわかっていない」
「……」
「そこで何かをしたはずなんだ。あんたら、あっちの方面にいるんだろ。東部方面攻撃隊と行動を共にしているなら、注意しておいた方がいいぞ」