254 アンドロに知り合いがいるんでね
スゥとライラ。
サキュバスの庭、ライラの部屋。
二人は頻繁に会っているのか、最初から案内の必要はなかった。
扉の暗証番号も把握していたし、ライラも喜んでドアを開けた。
まずは四方山話。
街は、平穏とはいかないようで、フェアリーの庭は大賑わいだそうだ。
人々が強いストレスを感じ、不安を抱いている証拠だという。
フェアリーの庭。
サキュバスの庭の上部にある細い路地で、呪術師や占い師や探偵業、もろもろのやばい仕事を請け負う店が集まっているところだという。
二人はそこに店を構えているらしい。
ライラの言葉の端々に、街の様子がよくわかる。
今のところは大丈夫だけど、見ててごらん。そのうち、食料が滞るぞ。
飲水に細工がされるって、噂さ。飲めば、一時的に無気力状態になるらしい。
再生されるまでの日数がかかるようになる。システムの能力が低下するだけじゃなく、再生検査が厳重になるんだとさ。
早速、義勇軍が結成されたそうだ。どうなるものでもないと思うな。寄せ集めじゃあ。
失業者が増えるだろ。このエリアREFも繁華街になっちまうかもな。
などといった、井戸端会議的なものから、
防衛軍の生き残りは、南東のオールドキーツの廃墟に集結している。近々、各地に展開している軍も合流するらしい。
北部方面攻撃隊は、解散状態。西部方面攻撃隊は兵力は大幅ダウンしたものの、まだかろうじてパイプラインを守っている。しかし、排除されるのは時間の問題。
他の攻撃隊は防衛軍に合流した。現在、オールドキーツにいる防衛軍と攻撃隊あわせて、勢力は約四百。しかし、主力は逃げ出した防衛軍。装備、武器、物資のいずれも不足しているそうだ。
目新しい情報もあった。
「アンドロの連中は、パリサイドに使者を送ったらしい。互いに干渉しないという申し入れらしい」
「ほう、そうなんですか」
スゥが黙っていたので、イコマが相槌を打った。
「向こう一年間という期限付き」
「その後は?」
「そのときに話し合うってことさ。それまでは、パリサイドがシリー川に住むことを黙認する内容らしい」
一年。
アンドロは、街を完全掌握するまでに、それだけの期間が必要だと思っているということか。
「かなり、悠長ですね」
「ん、まあ、そうともいえるかな」
「アンドロが生殖機能を手に入れ、人と同じような感情を持つようになるまで、ということかな」
「ん? あんた、物知りだね。どこで聞いたんだい?」
「まあ、アンドロに知り合いがいるもんでね」
「そうなのかい。珍しいアギだね。この間は失礼なことを言ったかな。謝るよ」
「いえいえ。こちらこそ失礼しました」
アンドロがそれらを手に入れるのに、どんな方法を使うのだろう。
それが話題になったが、そろそろ引き上げ時だ。
ホトキンをエーエージーエスに連れて行ったことを、すでにライラは知っている。
「これだろ。あの子に返しておくれ」
聞き耳頭巾の布地と、ハクシュウの手裏剣を出してきた。
「触らせてはもらったけど、大事に保管しておいたよ。確認しておくれ」
「確かに」
ライラは、まだ話していたいようで、別の話題を持ちだした。
「あんた達は会ったのかい? オーエンに」
部屋を辞したかったが、老人の話は最後まで聞かなくてはいけない。
ライラ自身が、そう言っていた。
また怒り出されてもかなわない。
「うちの亭主も、これで生きがいができればいいんだけどね」
「会いましたよ。声だけですが」
「ハハハ、そりゃ、声だけさ。あんたと一緒で、あいつは一応、アギだからね」
一応はアギ。
「オーエンは、あのどでかいチューブに巣食っている。あそこが離れられないんだね。まるで妖怪さ」
ライラがまた大きな声で笑った。
「きっと、念願の実験か何かをしたいんだろうよ。うちの亭主が呼ばれたってことは」