252 ここは何階だ?
さて、ここからが作戦の本番である。
「拠点、どこにする?」
門番の部屋を出て、坂道を上り、上の通路に出た。
人っ子一人、いない。
ネールは浮かない顔だ。
「あれ、さっきのこと、怒った?」
「んなことは、どうでもいい。チョットマ、ここは何階だ?」
「たぶん地下五階か六階。もしかすると八階とか十階かもしれないけど」
「そうか、一旦、プリブの部屋に戻ろう」
ローブの男とのひそひそ話が聞こえていたのかもしれない。
それを気にしてくれたのかもしれなかった。
プリブの部屋に戻った四人とフライングアイは、休憩を取った。
イナレッツェが冷蔵庫を発見した。
「こりゃいい。冷えた果物がある」
軽食を取りながら、イナレッツェが軽口を叩いた。
「あんた達、そんなに仲よかった?」
「誰と?」
「だって、さっき、自分で考えろって言い合って。仲良しならではの喧嘩みたいだったよ」
「ふうん、そう」
たしかにチョットマはリラックスしていた。
以前の任務に比べれば、簡単な作業だ。
実質的には、あちこち歩き回って、マップを作りさえすればいい。
クシの存在が不安ではあるが、ライラに会うのも楽しみだった。
リンゴを頬張りながら、ネールが話し出した。
「地下五階かもしれないし十階かもしれない。なんともはや。しかし、街の監視システムに捕捉される可能性は低いんだろ」
「よくわからない」
「そう思わなきゃ、作戦は遂行できそうにないし」
「まあね」
「さっきの乞食より上のエリアは、捕捉されてしまう可能性があるんじゃないかな」
「乞食じゃないって。門番兼荷物預かり。そんなことを言っちゃ失礼だよ」
「はいはい。一応、あそこより上はビルの中のようだし、危険かもな」
「この部屋なら、安全と思ってもいいかも」
スゥが太鼓判を押した。
「ここなら大丈夫」
プリブの部屋の両隣を含めて数戸分が空き家であれば、壁をぶち抜けばいいかも。
隊員が全員集結できるスペースを作れるかもしれない。
「うーん、大掛かりだな。天井が落ちてきたらどうする」
「やっぱりダメか」
「却下だな。しかたない。とりあえず、拠点はホトキンの間としておこう」
マップの作成に取り掛かろう。
「危険を冒すことになるが、歩き回るしか手はない」
「うん。でも、家捜ししてみようか。なにか出てくるかも。プリブには悪いけど」
「そうだな。でも、ライラに話を聞きにいくのは、急いだ方がいい。留守だと、何度も行かなくちゃいけなくなるから」
ライラに街の状況を聴きにいくのは、スゥの役と決まっている。
「ここから、ひとりで行けますか?」
チョットマはその言葉を遮った。
「私も行きたい」
ネールが目を剥いた。
「おいおい、それはやめてくれないかな。ンドペキは、街の監視網にかからないエリアでのみ活動せよ、と言ってたぞ。スゥの案内役はチョットマのパパに任せる」
「でもさ、考えてみたんだけど、ライラの部屋に行くなら、途中で暗証番号を入れる扉が三回もあるよ」
ネールがスゥに目をやった。
「だから、部屋に行くことはできない。夜、あのバーに行くことになるよ」
スゥはひとりであのバーに行けるだろうか。
「ねえ、スゥ」
ところが当の本人は、なんとなく上の空だ。