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24 残されたもの。それは、呪うべき技術

 超高齢化が留まることを知らなかった日本。

 少子化も先鋭化し、稀子地獄と呼ばれていた国家……。

 イコマが金沢でユウと再会した、その年の暮れ。

 痛烈な一撃が食らわされた。

 六百年ほど前のことである。



 二十一世紀の半ばになっても、世界はあいも変わらず力づくの権益確保が横行していた。

 人類はまったく学習していなかった。


 そしてもうひとつの戦い。

 多様な宗教と民族は、グローバル化によって小さくなった世界では共存できなかった。

 偏狭な考えから、人類は脱却できなかった。

 テロ、サイバー、宇宙という新しい形の戦争が一般化した時代でもあった。


 世紀も後半に差し掛かると、主義主張の違いという単純でつまらない争いは、富める者と貧しい者との戦いに明確に移り変わっていった。

 数多の国で、国内紛争が蚊が湧くように勃発し、友好的だった隣国との関係もギクシャクしていた。

 世界中いたるところで、軍備増強が叫ばれていた。



 そしてついに、比較的長い間平和を維持し、どんな紛争にも対岸の火事とばかりに無関心を貫いてきた日本にも、直接的な攻撃が仕掛けられたのだった。


 日本は、防衛という意味ではあまりに無力だった。

 軍備も、社会構造も、ましてやサイバー空間においては。

 そして人々の無力感という意味でも。




 第三次世界大戦。


 かつての大戦のように、限られた国々が覇権を争う戦ではなく、信ずる神の違いという争いと、貧富の差を根にした戦争は、世界中をあますところなく巻き込んだ。


 また、複雑に絡み合った国家レベルの利害が、あるいはグローバルな企業の思惑が、あるいは独裁者の狂気と保身が、軍事企業の暗躍が、戦争の終結を見えないものにしていた。


 ほとんどの国で、相手国と戦うと共に、自国内での紛争や狂信者集団の蜂起に手を焼き、ありとあらゆる国々が国力を使い果たすまで戦いを続けざるを得なかった。


 まるで、小さな箱の中に押し込められたコオロギが互いに殺し合うように、正義も目的も、そして未来もない戦だった。



 一時は停戦が保たれた時期もあった。

 しかし、明確な勝者と敗者のない停戦は、長続きはしない。

 もともと、横暴さだけを国是としてきた国々が仕掛けた戦争。

 獲得するもののない停戦は、次の侵略のために力を貯めているだけのものでしかなかった。

 いずれ第四次世界大戦に突入することは、誰の目にも明らかだった。



 戦闘のためだけに開発された技術。

 人が操る武器ではなく、また操縦するものでもない戦闘マシン。


 生物兵器もおぞましい進歩を遂げていた。

 細菌系兵器はもちろんのこと、哺乳類や爬虫類や鳥類を改造した生物兵器さえ開発されていた。

 安価に製造できるよう、それらのほとんどは自動増殖機能を備えていた。

 自力でエネルギーを補給し、考え、そして子供を生み、世界中に生息域を広げていった。


 平和時には考えもしない愚行が横行していたのである。

 洗脳され、狂った人間が、どの国にもいたのだ。

 それが指導者であれ、民衆であれ。




 都合、十八年間にわたる世界大戦。

 砲弾が底をつき、戦争がついに終結したとき、百億以上あった世界の人口は、十億を下回るまでに減少していた。

 もっとも大きな被害を受けたのは、ヨーロッパ諸国とアメリカなど、二十世紀にいわゆる先進国といわれた国々である。

 そして言わずもがな、食料自給率の低い国。

 日本もその例に漏れず、三千万人を割り込むに至っていた。




 失われたのは人の命だけではない。


 多くの産業、文化。そして社会構造。

 消滅してしまったといっても過言ではない。

 もちろん、地球の自然も。




 大戦後、人々は復興を諦めた。

 地球上のあらゆる社会全体が腐敗した卵のように悪臭を放ち、崩れ去ろうとしていた。


 地球環境の致命的な汚染と食料生産力への絶望的な打撃によって、大規模な飢餓と疫病が継続的に発生し、十数年後には世界人口は五億人にまで減少するだろうと予測されていた。

 はたして、その予測をはるかに超えるスピードで、世界の人口は減少を続けた。

 戦後五年の間に世界人口は三億人、日本の人口も一千万人を切ったのである。





 そして残されたもの。

 それは、呪うべき技術。


 人間を増やす技術、あるいは人間を死なせない技術が発達したのだった。

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