25 記憶 金沢駅
金沢駅。
日本中、地方都市はどこもそうだが、しんと静まり返っていた。
改札はおろか、プラットホームにもコンコースにも人の姿はない。
駅だけではない。
街中に、動くものの気配は感じられなかった。
かつてはあれほど賑やかだった大きな天蓋のある駅前広場には、崩れかけた数台のバスや車が放置されたまま。
もてなしドームと呼ばれた門や、歩行者通路の屋根のポリカーボネートはすべて割れ落ち、寂しく骨組みだけを残す。
それさえ錆び付いて、薄暗くなりかけた空に黒い残骸を晒すのみ。
店という店、ビルというビルはシャッターを降ろし、あるいは略奪の跡を残したまま、既に廃墟と化していた。
雪は全く積もっておらず、むしろ蒸し暑いとさえ感じた。
ただ、空だけは冬空らしくどんよりとして、今にも降り出しそうな雲行きだった。
天空のただ一点を除いて。
生駒は駅前広場への階段の上に立ち、街の様子を観察した。
大通りを遠く、ぼろをまとった者がふらふらと横切っていくのが見えた。
人、か。
コンコースへ戻った方がいいだろう。
自分は老人である。連れは女。
この街の住人に好奇の目で見られて、良いことが起こるとは思えなかった。
今晩は、コンコースの人目につかないところで眠ることになるだろう。
「どこに行くのか」
唐突に呼びかけられて、思わず躓きそうになった。
綾が生駒のコートの影に身を隠そうとした。
そのまま逃げ出したい衝動に駆られたものの、体が自然と振り向いた。
「聞こえないのか。質問している!」
戦闘服に身を包み、武器を携えた男が二人立っていた。
「……」
若い兵士がゆっくりと軽機関銃を水平に構えるのを、上官らしき方が押し留めた。
「我々は、陸上自衛隊中部方面隊金沢駐屯地の者である。改めて聞く。どこに行こうとしているのか」
肩の力が抜けた。少なくとも、この男達は自分達に危害を加える者ではない。
しかし、生駒は嘘を言った。
「故郷なのでね」
この街の住人ではないことは、この自衛隊員には一目瞭然なのだろう。
自分達を誰何する目に、強い不信が表れている。
しかし、本当のことを話したところで、理解してくれるとは思えなかった。
むしろ、自分達の目的を阻まれることは目に見えていた。
「観光に」
この街に、なんと似つかわしくない言葉だろう。
見え透いた嘘に自衛隊員が納得するとは思えなかったが、それ以外にいい言い訳は思いつかなかった。




