247 強制死亡処置者のリスト化は始められたばかり
「タールツーが長官になるんだろうか」
「そのようです。暫定行政長官を名乗り始めました。そのうち、何らかの儀式を経て、正式に長官を名乗るのでしょう」
ハワードには、レイチェルがンドペキらによって救出されたことは伝えていない。
政府軍はそれを知っているが、もしアンドロ側が知らないのなら、レイチェルの居場所を話す必要は無い。
情報が漏れないとも限らない。
「そうなれば、政府機関に勤めているマトやメルキトは?」
「徐々に排除されるのではないでしょうか。特に」
「特に?」
「軍関係はすべてアンドロが占めることになるでしょう。ンドペキ達のような攻撃軍も含めて。それから、治安関係の機関、エネルギー関係の機関、食料や物資関係の機関など、重要なポストはアンドロが占めることになると思います」
「まあ、そうだろうね」
ハワードはアンドロ。
相変わらず、説明はくどい。
「城外に逃れた政府軍は?」
「それははっきりしています。強制死亡処置です」
数百名に及ぶ強制死亡処置。
きっと、自分が兵士だった記憶を消されて再生されるのだろう。
「ンドペキ達もいずれは……」
「現在、強制死亡処置者のリスト化は始められたばかりです。まず、防衛軍兵士から。攻撃隊はその後です。ただ、攻撃隊が強制死亡処置になるのかどうか。攻撃隊は、レイチェル指揮下にあるとはいえ、街を守るという性格の軍組織ではありませんから」
「そうか……」
都合の悪いものはあくまで排除する。
強制死亡と記憶の削除という力を振りかざして。
それを異端だとは思わないアンドロが支配する街。
ニューキーツは独裁国家の道を歩み始めているのだろうか。
どんなに活気があっても、どんなに発展しようとも、そしてどんなに豊かであっても、暗く、抑圧された心が渦巻く街に。
「恐ろしいことだな」
イコマは正直な気持ちを口にしたが、ハワードはそれほどでもないようだ。
そんな感傷的な思考はない。
話題を少し変えた。
「アンドロがこの街を治める、とすれば、他の街との関係はどうなると思う?」
ハワードは、これには明快な答を持っていないようだった。
「私にはわかりません。ですが……」
ひとしきり唸ってから、予想外のことを口にした。
「私はタールツーの政治は長くは続かないと思います」
「ほう」
「ニューキーツをアンドロが支配するのを、他の街が黙って見ているはずがありません」
「戦争になるか……」
「ええ。しかし、そうなる前に……。タールツーはダメでしょう」