246 自由に生きること それが保証されれば
イコマのもとにハワードが訪問していた。
すでにアヤが救出されたことは伝えてある。
足が片方なくなっていることも。
ハワードは、それを再生させる医療機関を探してくれていた。
公的医療機関では可能だが、アンドロが街を押さえたことによって、かなり混乱しているとのことだった。
他の街へ連れて行くのも難しい。
アヤの体調もそうだが、彼女の職業的身分がそれを難しくさせている。
バードは職場では休職扱いになっているらしい。
「職場で、彼女のことを話した?」
「話しました。でも、ンドペキの隊と一緒にいることは話していませんし、エーエージーエスで発見されたことも」
賢明な判断だ。
「街はどうなるんだろう」
「街も、ホームディメンションやクレパスDにも、特別な変化はありません」
ハワードが言葉を選びながら話す。
「ですが、上層部がバードを職場に受け入れるかどうか」
アンドロによる統治は始まったばかりで、確定的なことは何もない。
「レイチェル長官をおびき出す駒だったわけですから。彼女の役は終っています。したがって、街には戻れると思うのですが……」
アヤがニューキーツの街に戻れるなら……。
ユウとアヤと、大阪で過ごした頃のような暮らしに戻りたい……。
自分は思考のみの存在。
一緒の時間を過ごすにも、フライングアイかバーチャルな姿で……。
それでいいではないか。
ユウは、パリサイドのニューキーツにおけるトップ。
存在としては遠いが、もっと自由が利くようになれば……。
地球人類がパリサイドを受け入れて……。
アヤは、普通のマトとして、暮らして欲しい。
ユウのいるこの街で。
政府機関を辞めて、街の娘として、どこかの店で働くことができれば、どれほど気持ちは楽になるだろう。
一緒に旅行もできるかもしれない。
少なくとも、仕事の内容を話せない苦悩はなくなるはずだ。
自由に会い、自由に話ができる。
本当はそれだけでいい。
自由に生きること。
それが保証されればいい。
アンドロは、この街をどんな街にしようとしているのだろう。
もうひとつ、気になっていること。
「東部方面の隊員はどうなる?」
「削除リストにはありません」
「まずは安心、か」
「治安省の内部は大混乱しています。監視システムや削除システム、再生システムは、まだ従来の運用を継続していますが、エラー続きの状態です。何者かに乗っ取られでもしたかのように」
なるほど、ユウが言ったとおりだ。
「施設長も幹部も、組織の形も変化はありません」
今までどおり、多くの省庁をマトやメルキトが所管しているし、ハワード自身も従来どおり勤務しているという。
「業務としては、混乱の極みですが」
アンドロ、タールツーの反乱。
レイチェルを長官の座から引き摺り降ろす。
しかし、街はホメムが治めるという不文律がある。
アンドロはどんな動きに出るのだろう。
「しかし、いずれ刷新され、運用方針が大幅に変わることも考えられます」
「ああ」
「別のアンドロの集団が各省庁を接収することも考えられます。案外、早いかもしれません。そうなれば、東部方面隊もどうなるか」
「そんな兆候があれば、すぐに教えてくれないか」
「もちろんです」
アンドロのみで街政府全体を統括することになれば、何がどう変わるのか、見当もつかない。
アンドロと、ホメムやマトやメルキトが完全に融和した、ともに平等な社会は想像しにくい。
彼らに対する偏見を払拭することは容易ではないし、アンドロ自身も変わらなければならない。
肉体的にも精神的にも。
思考という面でも。