245 「行ってくる」「うん」
誰もが、今回の作戦を決戦だと感じている。
おくびにも出さないが、わかっている。
今度こそ、死ぬかもしれないと。
そして東部方面隊は消滅してしまうかもしれないと。
多感なチョットマは、あんな風に、そんな気持ちを表現した。
レイチェルも、隊長である自分をリラックスさせようと、あんな冗談を言って。
最後の別れになるかもしれない。
ンドペキはそう思うと、彼女達をはじめ、スジーウォンやスゥにも、女性としてもう少し優しくしておけばよかったかもしれないと思った。
そして、戦の前に女性のことを思った自分も、どうかしてる、と思った。
武装を整え、ラバーモードでパキトポークらに呼びかけた。
「準備はどうだ!」
「おさおさ抜かりなく」
「万端だ」
「いつでもオーケー」
と、返ってくる。
自分の隊員達にも呼びかけた。
「準備はいいか」
誰もが、気合いの入った言葉を返してくる。
チョットマ含め。
「よし、準備ができた者から、洞窟を出て待て。今日もピクニック日和だぞ!」
ンドペキはモードをチョットマ指定にして呼び出した。
しかし、今、言うべき言葉はない。
「行ってくる」
「うん」
それだけだった。
アヤの部屋に向かった。
硬い装甲の手で、アヤの髪を撫でた。
「早く良くなってください」
アヤは頷き、涙を流した。
付き添っているジルが、最敬礼した。
ンドペキも返した。
ついぞ見たこともない、敬礼の交換だった。
レイチェルは、アームストロングという名を挙げた。
南極大陸の街。
一応、ワールドの首都ということになっている。
国という枠組みがなくなった最初の地域。
「寒いところだ。ハネムーンに行くようなところじゃないね」
そう言うと、レイチェルはまた、私はどこでもいいんだけど、と口元に笑みを見せた。