243 ンドペキ、忙しいよね
部屋の前に、チョットマが立っていた。
「どうした?」
「忙しいよね」
「ああ。でも、なんだ?」
「私さ、ンドペキと出会えて、ううん、スクールの正門で拾ってもらって、よかったなって」
そう言うと、駆け出していった。
緑色のつむじ風が舞った。
「あ、おい。チョットマ!」
チョットマの姿はもうない。
ラバーモードで話しかけようにも、ゴーグルをつけていない。
「なんだあ?」
彼女なりの最後の挨拶に来たのかも。
無理はするな。
任務は果たせなくてもいいから、必ず戻って来い。
そう伝えてはいるが。
あいつ、死を覚悟して……。
そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。
部屋に篭って考え事している場合ではない。
あいつを探さなくては。
チョットマの部屋を手始めに、スミソの部屋、手当たり次第に隊員の部屋を覗いて回った。
瞑想の間にも向かった。
チョットマが最もいそうでないレイチェルの部屋さえ覗いた。
むろん、いない。
残されたのは、アヤの部屋。
「ここにいたのか」
チョットマは、アヤのベッドの脇に胡坐をかいて座り込んでいた。
「探したぞ!」
「なぜ、来るの! ンドペキは今、大変なのに!」
「こっちへ来い」
ンドペキはチョットマを部屋の外へ引きずりだした。
なんとなく、アヤに聞かれたくない。
「もういいから! 早く自分の仕事に戻って!」
「でもな」
「私のことは放っといて!」
チョットマは、手を潜り抜けて扉をバタンと閉めてしまった。
「ごめんよ。今度、ゆっくり話そうな」
扉に向かってンドペキは呼びかけた。
隣の部屋に入るなり、レイチェルの膨れ面が出迎え。
「ゆっくり話って、誰に言ったの? バード?」
この通路には、女性陣の部屋が並んでいる。
一番奥の立派な扉の付いたスゥの部屋に続いて、レイチェル、アヤの部屋が並ぶ。
聞こえていたのだ。
「そんなことより、今後のことを報告しておく」
作戦について、事前に話はしてあった。
目新しい報告事項はない。
ただ、聞いておきたいことがある。
「レイチェル。言いにくいことだが」
「なに?」
「作戦が上手くいかなかった場合、君はどうする?」
状況によって、レイチェルの取るべき行動も様々に変化するだろう。
ただ、最終的な覚悟を聞いておきたかった。
それによっては、自分達の行動も変えざるを得ないかもしれない。