242 作戦の大筋
翌朝、ンドペキは予定通り、作戦会議を開いた。
まず、ハクシュウの隊だった者の転籍を発表した。
一人ひとり、ンドペキ、パキトポーク、スジーウォン、コリネルスの各隊への移動を伝えていく。
神妙な雰囲気になるが、しかたがない。
いつまでもハクシュウの代行として、残存部隊を率いるわけにもいかない。
作戦の大筋はすでに決めてある。
「まず、イコマ氏に正規軍への使者を頼む」
フライングアイの体にレイチェルの書簡をぶら下げても飛べる、これを実験によって確かめてあった。
反対意見は出なかった。
「次は、アンドロ軍の現状を把握すること。これもイコマ氏に頼みたい」
エーエージーエスにタールツーの軍勢が潜んでいるとしても、彼らがチューブの中にいるのか、扉の前の階段にいるのかによって、戦術は大きく異なる。
扉の前の階段に留まっているのなら、比較的攻撃しやすい。
地上の入り口さえ押さえれば、後はいわば袋の鼠だ。
しかし、もしチューブにいて、それをオーエンが容認しているのなら、かなり厄介なことになる。
「攻撃は、ンドペキ隊、パキトポーク隊、スジーウォン隊にて当たる。ただし、やつらがチューブに入っているなら、作戦は練り直しだ。オーエンの協力を取り付けられることが条件」
これにも反対意見はなし。
「首尾よくエーエージーエスのアンドロ軍の動きを封じ込めることができたら、我々の行動も楽になる」
タールツー軍を叩くことができれば、政府軍防衛隊にこちらに正義があると認めさせるスタート点に立つことができる。
それに加えて、背後からの攻撃を気にしなくてもよくなり、街の奪還作戦にも戦力を割けることになる。
早速、フライングアイが飛び立っていった。
ひとつは書簡を持って、正規軍、ロクモンの陣地へ。
ひとつはエーエージーエスに向かって。
「コリネルス隊は、レイチェルとバードの警護及び洞窟の死守だ。ただ、二名の隊員を出してくれ。アンドロ軍攻撃の背後を固めさせたい」
「了解だ」
「念のため、全資材の数量チェックもしてくれ。長期の篭城を覚悟するとして、その配給計画を立ててくれ。期間は三ヶ月を目処だ。余力があれば、全隊員の健康管理計画、居住環境の整備計画も。ベッドの用意も始めてくれ。いつまでも硬い床の上で寝れないからな。無駄になるかもしれないが、頼む」
「うむ。わかった」
「もうひとつの作戦は、街の状況を探ること」
これが最も頭の痛い問題だった。
イコマからの情報はある。
しかし、自分達の目でも確かめたい。
ただ、危険を伴う。
「加えて補給路を確保すること。さらに、洞窟内の街に近い位置に我々の拠点を移動することができるかどうかの調査もだ。この作戦は、チョットマとネールとイナレッツェが当たって欲しい。スゥが協力してくれる」
ネールはハクシュウの部下で、冷静沈着が鎧を纏っているような男。
イナレッツェはコリネルスの部下で戦闘力、知性共にある汎用性のある女性隊員。
いずれも協調性のある兵士である。
この難しくて危険な作戦メンバーの組み合わせは、これしかないとンドペキは考えていた。
チョットマは外せないが、なにしろ直情型だし、基本的に楽天的。
部隊の拠点として可能かどうか、などという総合的な判断をさせるのは難しいだろう。
判断、決断という場面ではネールの出番があるし、それをイナレッツェが総合的にサポートするだろう。
加えてそこに、イコマを同道させたい。そうすれば思考体を介して意思疎通が図れる。
「ただ、この作戦は、どちらかのイコマ氏が帰還してからだ。彼にもその作戦に同行してもらうつもりだ。出立するまではコリネルスの指示に従うように」
三名とは、すでに作戦について詳しく打ち合わせてあった。
二、三の質疑はあったが、全員了解のもとに、ンドペキは散会を命じた。
「では、攻撃隊は三十分後に出発する。以上」
ンドペキは自分の部屋に急いだ。
洞窟を出る前に考えておかなければいけないことがたくさんある。
レイチェルにも報告しなければいけない。
最大の思案は、隊員達の安全だ。
街が反政府のアンドロ一派の手に落ちたのであれば、すべてのシステムがアンドロの意向どおりに動くと想定しなくてはならない。
洞窟を出た途端、消去されてしまう可能性もゼロではない。
装置をアンドロが掌握するのがいつなのか。
あるいは、すでに支配されているのか。
そうなれば、抵抗するマトやメルキトは、もう投獄されているか、消去されているかもしれない。
しかも、時間が経てば経つほど、その可能性は増す。
洞窟に篭っていても、事態がいい方向に動き出すとは思えなかった。
打って出るなら、早い方がいい。