241 三点減点
「はい、この話は終り」
ユウは起き上がり、下着に手を伸ばした。
「そろそろ行くか」
「うん」
ユウが、最後に大切な話を、と言った。
「私のこと、アヤちゃんには黙ってて欲しいねん。時期が来るまでは」
イコマは驚いたが、それにもきっと理由があるのだろう。
「わかったよ。でも、僕にとって黙ってることは難しいぞ。アヤちゃんはどんなに喜ぶだろう。というより、彼女はもう一度、なんとしてでもおまえを探したいって言ってるんだ。そのアヤちゃんに嘘をつき続けるのは、なかなか」
「あと少しだけ。いじわるじゃないから」
「そりゃ、わかってる」
「私やノブが自分のことを、もっときっちりアヤちゃんに話せるようになってから。その方がアヤちゃんにもいいことだと思うから」
「僕は自分のことはちゃんと話せるぞ」
「そうね。でも、もうすぐ、もうすぐ、もっとちゃんと話せるようになるから」
言わんとすることは理解できなかったが、自分とユウの間にはまだまだひと波乱もふた波乱もあるのだと理解した。
しかし、もう何があっても構わない。
かかって来いという気分だ。
今日という日を迎えることができたのだから。
「本当はさ、私だってアヤちゃんの顔を見に行きたい。でも、もう少し辛抱」
イコマは再び、わかったと言った。
「ところでさ。ノブはンドペキをどう思う?」
「ンドペキ?」
「好きか嫌いか、で点をつけたら、何点くらい?」
抱き合った後の他愛ない会話そのものに、ユウが聞いてくる。
「んー、そうだな。考えたことないけど、アヤちゃんを助けるのに奮闘してくれた。だから十点満点かな」
「うん。じゃ、人柄としては?」
「なんだよ。その質問」
「いいから答えて。これから、それが重要になるねんから」
「はぁ?」
「さ」
「意味わからんな。でも、重要なことなんだな?」
「で?」
「七点にしておく」
「なんで、三点も減点なん?」
「んー、ま、好きな女にあいまいな態度ばかり」
「ブハッ、ハハッ! それってノブと一緒やん! よかった! また、明日来るから」
意味不明な言葉を残して、ユウは帰っていった。




