240 そこにどんなドラマもない
「ところで、ンドペキ達が消去から免れる方法はないのか?」
「気持ちはわかるよ。けど、私が守りたいのはノブとアヤちゃん。二人を守るためにも、私はニューキーツのパリサイドのトップであり続けな、あかんやろ。他の人のことまで指示したら、干渉しすぎってことになる。わかるやろ」
「しかたないか」
「ごめん。でも、監視システムも消去したりするシステムも、今はものすごく機能低下してる」
「そうなのか?」
「でも、個人を特定して、安全ボックスに入れるというのはできない、ということ。実は、それはノブもアヤちゃんも同じ。システムから切り離してしまいたいけど、まだ時期尚早。あくまで地球人類の作ったシステムとして、今は運用しておきたいから」
「わかる気がする」
「ンドペキたちにも安全を保証してあげたいよ。けど、まだ無理。突発的なことはあると思ってて。機能低下はしてるけど、ちゃんと動いてるから」
「でも、ンドペキの隊が軍に襲われそうになったとき、パリサイドは助けてくれたよな」
「あれは、あそこにアヤちゃんがいたからやん」
「なるほど」
「だから部下を二名、送った。もしあの二人が死んだら、ンドペキは報復に出る。そうなれば、アヤちゃんの命が危うくなる。そう思った。まずは暴発を避けたかった、ということやね。結局、あれはアヤちゃんと違うかったけどね」
「うん。ということは、KC36632が来たことも?」
「そう。戦闘によってンドペキ隊が壊滅することを避けるのが目的。あそこにアヤちゃんがいるかもしれないと思ったから」
ふうと、ため息をつき、ユウが唇に指を沿わせた。
ユウの癖。
それを見て、イコマは何とも言えない幸福を感じた。
「私もなかなか気を使うねん」
「まあ、そうだろな。中間管理職じゃ」
「うん。でも、部下には恵まれてるよ」
「そりゃいいじゃないか」
「中でも、KC36632達。直属の部下。彼女は地球で生まれた人じゃない。でも、口は堅いし忠誠心もピカ一。そういう人を厳選してる。パリサイドの中で、私の本当の行動を把握しているのは、ほんの数人だけ」
「わかった。おまえの立場が悪くなるんだったら、さっきの話はなかったことで」
「ありがとう。よかった」
「いや、僕こそ悪かった。そうとは知らず、余計な頼みごとをした」
「ごめんね。それと、言いにくいんやけど、念のために」
「なに?」
「もし私達に危害を加えるようなことがあれば、厳しく反撃するよ。そういうことになってる。わかってな」
「ああ」
「私が言ったことを彼らに伝えるかどうかはノブの自由。でも、くれぐれも特別扱いじゃないってことを、ノブ自身がわかっておいてね。特別扱いは、ノブとアヤちゃんだけ」
「わかった。しかしパリサイドの力って? とんでもないのか?」
「そうやね。昔、西暦二千年ごろにエイリアンの映画があったでしょ。宇宙人が地球を征服に来るって話。人類は生き延びれるのかって感じの」
「ああ」
「あれは嘘ばっかり。本当は、そこにどんなドラマもないよ」
それはそうだろう。
ユウが言う。
地球が太陽に、木星でもいいよ、そういう星に飲み込まれるときのことを想像してみて。
一瞬の内に、地球という天体が何十万度にもなり、粉々に砕けて霧となり、太陽や木星の大気の一部になる。
ヒーローとヒロインが、人類をどうのこうのって、やってる時間なんてないよ。
瞬時に地球そのものがなくなるんだから。
「ううむ」
私達の本気の力って、そういうもの。
数百年間も宇宙を旅してきた。
想像もできないほど遠いところまで。
数万光年も離れた遠い星まで。
地球人類には想像することもできなかった場所を。
そのためには、私たち自身がとてつもない強さを持っていないと。
「呪われた体……、わかる?」
「はあ。想像以上にとんでもないんだな」
「人類ってさ、神がどうのこうのって、本当に泣きたくなるくらいに小さな存在。悲しいのは、それがわかってるのに、わからない振りをしていること」
ユウが、なぜここで「神」を引き合いに出したのか、ここ何百年、地球に「宗教」という存在はない。
そして、呪われた体。なぜそんな表現をしたのだろう。
少し違和感を持ったが、問わずにおこう。
ユウの指が、今度はイコマの唇に添えられた。