238 またやっちゃった……
「今、言ったことの意味、わかった?」
「は、えと、……いいえ」
雷が落ちるかと思ったが、レイチェルはあくまで冷静。
いや、ネチネチ作戦。
「そうなの。わからなかったのか」
「すみません」
チョットマも意地になっていた。
余計なこととはなんですか? 教えてください、なんてことは絶対に言わないぞ。
「あなたがサリと同じ隊の兵士になるとは、思ってもみなかった」
レイチェルが気になることを言った。
「あの、どういうことでしょうか」
サリも私も、ハクシュウやンドペキがスカウトしてくれたのだ。
レイチェルになんの関係がある?
「あなた達ふたりとも兵士になった。それはそれでよかった。でも、別の隊にスカウトされるのが理想だったのよ」
「はあ……」
よくわからない。
すでに、チョットマはかなり不愉快になっていた。
そんなことを言われる筋合いはない。
しかも、そのどこが余計なことだというのだ。
会議室で感じたのと同じような怒りが沸き始めている。
そしてその怒りは、レイチェルの次の言葉で一気に膨れ上がった。
「サリもあなたも、同じ人を好きになってしまった」
「はあ?」
「だからあなたは、さっき言ったようにすばらしい隊員として生きて。余計なことは考えずに」
「はあああ?」
レイチェルは立ち上がり、背を向けた。
「待って!」
まぶたに血が溜まったかもしれない、と思うくらいに腹が立っていた。
「どういう意味です? もっとはっきり言ったらどうなんです!」
振り返りざま、
「いい加減にしなさい!」と、レイチェルは厳しい声。
フライングアイが、ふわりと二人の間に浮かんだ。
そして穏やかな声で言った。
「レイチェル。僕の娘に対して、それは言いすぎだと思いますよ。それに、少なくとも今、我々が置かれた状況下で話題にすることじゃない」
レイチェルはすでに顔を真っ赤にしていたが、何も言わずに背を向け、ぎごちない足取りで瞑想の間を出て行った。
「パパ……、またやっちゃった……」
「そうだねえ」
「どうしよう……」
「うーむ」
「私、消去されちゃう……」
「そんなことはないよ」
「でも」
「レイチェルはそこまでバカじゃないと思うよ。彼女にとって、君も命の恩人だから」
「だって、完全に怒ってたよ。鬼みたいに目も真っ赤だったし」
「大丈夫。それに、この洞窟にいる間は安全。政府のどんなシステムもここでは効果がない。通信さえ、遮断されてるんだから」
「でも、皆で街に帰れるときが来たら、私だけ消去されるかも」
「心配、しない。そんなことになれば、ンドペキもパキトポークも、みんな黙っちゃいないよ」