237 あなたはすばらしい隊員
レイチェルが姿を見せた。
レイチェルも意外だったのか、見張りをしているのがチョットマだと気づくと、一瞬立ち止まって目を細めた。
そして、近づいてくると、物資の箱に腰をおろした。
真正面から見つめてくる。
なにか言わなければ、とチョットマは思ったが、姿勢を正すこともせず、発するべき言葉も出てこない。
「チョットマ、あなたも見張りなのね。街まで往復して疲れているのに」
「ンドペキは、そんな差はつけません。疲れているのは全員同じですから」
ンドペキ自身も洞窟の入り口で見張りをしています、と言いそうになって、あわてて口をつぐんだ。
じゃ、とレイチェルがそちらに向かえば面白くない。
顔が見えなくてよかった。
初めて本気でそう思った。
「そうよね」
「あの、レイチェルはなぜここに?」
「眠れなくて。寝すぎたからかな」
「……」
「瞑想の間って、来たことがなかったから、どんなところかなと思って。すごい量の物資ね」
「はい」
「あそこが街へ繋がる通路ね」
「はい」
レイチェルは、ぴたりと目を据えて話しかけてくる。
そしてとうとう、「ねえ、チョットマ」と呼びかけてきた。
「はい?」
チョットマは、人と話をしていて、こんなに居心地の悪い思いをしたのは初めてだった。
「あなたは、すばらしい隊員ね」
まずい。
これはお目玉だ。
お褒めの言葉の後に叱責、のパターンだ。
言わねばならないことを思い出した。
「あの、作戦会議のとき、私、失礼なことを言って、すみませんでした」
無理やり頭を下げた。
「ううん。いいのよ。そういう意味では気にしてないから。あれは私がンドペキに無理やり頼んだこと。あなたは正しかったわ」
レイチェルの言った意味はよくわからないが、チョットマは少し胸をなでおろした。
長官の声は叱責モードではなかった。
「あなたはすばらしい隊員」
レイチェルがまた同じ言葉を繰り返した。
「だから」
来た。
やはり叱られるのだ。
チョットマは身を硬くした。
総司令官直々に叱られる。
これはいわゆる始末書ではすまないかも知れない!
「余計なことは考えなくていいのよ」
余計なこと?
その意味がわからなかった。
レイチェルの後ろにパパがいる。
レイチェルは気づいていない。
フライングアイに表情がついていたらいいのに、と思った。
きっとパパは今、ニコニコして見守ってくれているだろう。
そう思うと同時に、自分が緊張していることに気がついた。
悟られないように、ヘッダーの中でフゥーと息を吐き出した。
そして待った。
レイチェルが、その余計なこととはなにか、を説明してくれるのを。
レイチェルの顔は幾分赤みがさしている。
無表情だが、立腹しているのかもしれない。
ところが自分の表情はレイチェルには見えない。
マスクをつけ、ゴーグルをつけ、ヘッダーをかぶることが、こんなに気持ちに余裕をもたらすものだったとは。
直立したまま、何も言わないままレイチェルに対峙している。
自分の態度が、彼女には不遜に映っているかもしれない。
「ねえ、チョットマ」
「はい」
うわ、繰り返しのパターンだ。
ねちねちと、絞られるんだ!
淵から目を離すわけにはいきませんので、背中を向けてもいいでしょうか、と言ってみる?
きっと致命的に怒らせる。