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234 おじさんがすべて

 伝えるべきことを思い出した。

「私、あの、聞き耳頭巾?、の布を買いました」

「えっ」




 チョットマは市場であった出来事を話した。


「それを、パパは聞き耳頭巾の布だって」

 アヤは目を見開いていた。

「ホトキンの奥さんに渡してしまったんですけど、街に帰ったときに取り返してきますね」

「ありが、とう、ご、ざいます!」



 アヤがいうに、その布は自分の部屋に厳重にしまい込んでいたという。

 エーエージーエスに囚われてから、誰かの手によって持ち出されたのだろう。

 そしてその日のうちに、あの布地屋の女将の手に渡ったことになる。

「ひどいことをしますよね」




「あの、あの布、すごい力ですね!」


 アヤが笑った。


「私、フード代わりにしたんですけど、まあ、それはそれは、いろんな声が聞こえて、大変でした!」


 アヤの顔に喜びが広がった。


「いいえ、すごいのはあなた、じゃないかな。あれを被ったからといって、誰もが、いろいろな声を聞ける、というものではないから」




 ジルが、不安そうな顔を向けた。

 そろそろ、面会制限時間か。


 しかし、アヤの言葉は続く。


「私なんか、半年、かかってやっと、鳥の声の意味、時々わかる、っていう、程度だった、から」

「へえ、そうなんですか」

「ねえ、チョットマ。あなた、もしかすると、とても、すごい人かも」


 褒めてくれているようだが、チョットマは照れくさいだけで、あまりうれしくはなかった。

 実感がなかった。




 チョットマはアヤに、隊が置かれている状況を説明しようとした。

 ジルが、あからさまに、もうちょっとそれは、という顔をした。


 アヤもそれを遮ると、もっと楽しい話をしたいと言った。



「姉妹だから」と、ざっくばらんな口調になって、アヤが言うのは。


 自分をあそこから救出しようとしたがために、東部方面攻撃隊を苦境に立たせていることは知っている。

 本当にありがたいと思う。

 でも、これからどうなるか、知りたいとは思わない。

 というのだ。


「そう?」


 驚きだった。

 こんなにあいまいで不安な状況に置かれたら、誰でも、これからどうなるのかと思うのではないか。




 私は、あなたのパパに会えて、とてもうれしかった。

 ね、私とあなたのパパがどういう関係か、聞いた?



「……うん」


 あなたのパパは、んっと、私はおじさんって呼ぶんだけど、再会できただけで、なんとなく十分な気がするのよ。

 私がこれからどうなるのか、おじさんが決めてくれる。



「そう……」

「決めてくれるというか、私はおじさんがすべて。私はどうなってもいい」



 アヤの言葉にチョットマは反応のしようがなかった。




 もし、力になれることがあるなら、私はすべてを投げ出して、それをする。

 でも、もし私にできることがないなら、邪魔しないように、後ろにいてじっとしてる。

 だから、私がこれから先どうなるかって、あまり興味はないのよ。




 理解しがたい話だった。


 私もンドペキが好き。

 ハクシュウも好き。

 もちろん、パパも好き。


 でも、今、アヤが言ったような割り切った考えはない。

 思ってもみなかったこと。



 しかし考えてみると、これから先自分がどうなるかって、実際はあまり考えたことはない。


 考えているふりをしているだけ?

 それで、自己満足してるだけ?




 チョットマは、自分がまだまだできていないな、と思った。

 一方で、アヤは死にかけて……。




「ねえ、チョットマ」

「なあに」

「もっと仲良くなりたいね」

「よね!」





 やがて、大広間で作戦会議が開かれた。


 冒頭に、ンドペキが報告した。

「街は、すでにアンドロに押さえられている。イコマ氏の情報によれば、一時間ほど前、アンドロ軍がどこからともなく現れ、政府軍を急襲したらしい。生き残った防衛軍は城外に逃れている、とのことだ」


 隊員達の呻き。


「ニューキーツが……」

「アンドロが……」


 万事休す。




「もうひとつ。街の噂だ。レイチェル救出に向かった政府軍。監禁施設内で、ハクシュウ率いる精鋭部隊によって壊滅したという話で持ちきりだそうだ」

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