233 姉妹のようなもの
隊員が大広間に集まっている。
隊の幹部はレイチェルと別室で話しこんでいる。
彼らを待ちながら、チョットマは軽食を配給した。
隊員達の間では、南軍に加担した隊がどこのものか、が話題になっていた。
北部方面攻撃隊ではという意見が多数だったが、反対意見もある。
彼らは隊としての一体行動はできないだろう。組織としての形が崩れている。
規律も乱れていることは衆知の事実。
組織だった戦闘の経験も少ないだろう。
そんな隊が、隊列を整えて大規模な戦闘に加われるだろうか、というのだ。
西部方面攻撃隊ではないかという声もあった。
こちらの方は、まだましだ。それなりに一体行動もできる。
しかし、先日の戦闘で壊滅的な打撃を受けているはず。
攻撃隊には、他にも南東方面隊、南西方面隊があるが、どちらも目立たない存在で、隊長も愚鈍な男と言われている。
それに、今、街の防衛は手薄になっているはず。
これらは防衛軍に編入され、街の防衛任務についているのではないか、という声が多かった。
パリサイドの行動も話題になった。
ただ単に空に浮かんで、まるで戦況を見ているだけだった。
どちらの味方をするわけでもない。
「チョットマ、やつらに連れて帰ってもらったんだろ。どんな様子だった?」
「どんなって、送ってやろう、俺の脚に掴まれって言われただけで」
「それで、ハイハイって、やつらの脚に掴まったのか?」
「一応、所属と名前は聞いたんだけど」
「おっ」
「JP01の部下だ、信用しろって。KW兄弟だって」
「ふうん。よくわからんな」
「うん、でもちゃんと連れて帰ってくれたし」
「やつらはここの位置を知っていたということだよな」
「そうみたい」
「それなら、味方してくれてもよさそうなもんじゃないか」
部隊は三つ。
アンドロの軍、政府正規軍、そして東部方面攻撃隊。
彼らはどの軍と共闘するのか、しないのか。
洞窟に引き上げてくるとき、パリサイドはまだ空に密集して浮かんでいた。
「やつら、様子見だな」
そんな意見が、最も多いように思われた。
「イコマからの連絡!」
洞窟の外の警戒部隊から連絡があった。
「荒地軍は、エーエージーエスに立て篭もっている模様!」
今後の作戦にどう影響するのか、わからなかったが、少なくとも、南軍がそのまま街に帰還する可能性はなくなったことになる。
ンドペキら幹部の作戦会議はなかなか終らない。
隊員達が大広間に集結してからかなりの時間が過ぎているが、誰もが粘り強く待っている。
チョットマはバードを見舞ってみようかという気になった。
まだ、彼女と話したことがない。
すでに意識は取り戻したと聞いている。
誰かが付き添っているだろうが、きっと不安だろう。
パパは出て行ったきり、帰ってこないのだから。
しかも、バードの身を案じて、誰も今の状況を話していないかもしれない。
バードの部屋はレイチェルの部屋の隣。
そこにいても、作戦会議が始まるときはわかるだろう。
「入っていいですか?」
声を掛けると、「どうぞ」というジルの声が返ってきた。
隊一番の美貌といわれている女性隊員。
シルバックと違って戦闘力は高くない。
今はもっぱら看護任務に就いている。
顔だけ出して様子を伺うと、早く入れと手招きされた。
「今、ちょうど、目を覚ましたところ」
小柄な女性が横たわっていた。
心配してしまうほど、顔色が悪い。
「ンドペキ隊所属のチョットマといいます」
と挨拶して、部屋に入った。
バードは、はにかんだように笑うと、
「あ、助けて、くださって、ありがとう、ございます」
と、声を出した。
たどたどしいが、想像していたより、声は元気そうだ。
「あ、いえ、私は何も」
「本当に、ありが、とう、ございます」
バードは、チョットマがハクシュウに頼んだことを知っていた。
「それに、ホトキンという人を、連れてきてくださって、あそこから、出ることができました」
「いえ、たいしたことは……」
本当は大きな犠牲を払っている。
ハクシュウとプリブを失った。
ただ、そこに触れるつもりはない。
彼女の気持ちを萎縮させる必要はないし、責任もない。
「あの、バードさん、んと、アヤさんとお呼びすればいいでしょうか」
「アヤと、呼んでください。あなたと私、パパを通じて、姉妹のようなものですから」
「はい!」
チョットマは、パパが自分のことを話してくれていたことに少し驚いた。
驚くと同時に、暖かいものが込み上げてきた。
「じゃ、チョットマと呼んで」