231 直ちにレイチェル閣下を
正規の政府軍が現れたことによって、事態が好転するかに見えた。
しかし、こちらの呼びかけに、彼らは応じようとしない。
チョットマのゴーグルにも相手の動きは表示されていたし、パパとンドペキとのやり取りも流れている。
また不安が頭をもたげてきた。
攻撃されるかも。
ハクシュウがやられたように。
もしそうなれば、どうすればいい。
数の点で言えば、対等以上に渡り合えるだろう。
しかし、相手はレイチェルの部隊。
そんな相手と戦うことはできない。
戦えば自分達の破滅に繋がる。
ハクシュウの弔い合戦は、誅敵となることを意味する。
確かに一時は、反逆者と呼ばれることを覚悟したときもあった。
しかし、今は状況が違う。
レイチェルは我が方にあり、相手はレイチェルの直属部隊なのだ。
何とか接点を持つしかない。
そして理解してもらうしかない。
ンドペキが近づきつつある南軍に何度も呼びかけている。
しかし、なんの返答も寄越さない。
すでに射程距離に入っていた。
緊張が続くが、ンドペキは絶対に発砲するな、と繰り返している。
ついに南軍が視認できる位置まで近づいた。
木々に遮られて、全貌を眺めることはできないが、兵が見え隠れする。
南軍が停止した。
「ロクモン将軍の隊とお見受けいたす! 我々は」
ンドペキに最後まで言わさず、
「敵と話し合う気はない!」
と、初めて、南軍指揮官の声。
「直ちにレイチェル閣下を解放されよ!」
「違う!」
「ニューキーツの街へお連れ申せ! 期限は、六時間! 解放されぬ場合は、当方は容赦なく汝らを殲滅する!」
そういうなり、南軍は後退を始めた。
「待て! レイチェルを拘束しているのではない! 我々はレイチェルと共にあるのだ!」
どう叫べど、相手はもう応答しようとしない。
チョットマは怒り心頭に達した。
「あんた達! 何寝ぼけてるの! 私達がレイチェルをエーエージーエスから助け出したのよ!」
この抗議にも、返事はない。
「真実を見ないで行動するのが、レイチェルの軍か! それが防衛軍なのか!」
スジーウォン。
「クソッ!」
繰り返し事情を説明するが、南軍はそのまま遠ざかっていった。
「ちきしょう!」
東部方面攻撃隊として、こんな侮辱はない。
担架に乗せるにしろ、背負子で担ぐにしろ、六時間あればレイチェルを街へ送り届けることはできるだろう。
しかし、それでは相手の誤解を正当化する。
しかも、その後の東部方面隊の名誉回復は不明だ。
レイチェルを手に入れた後、心おきなく攻撃される恐れもある。
むしろ、南軍の態度から判断すれば、そう考えるのが妥当だろう。
レイチェルはその誤解を解いてくれようとはするだろうが、一旦暴発している軍を押しとどめることができるだろうか。
「コリネルス、今の応答をレイチェルは聞いていたのか!」
「ああ、聞いていた。それどころか、飛び出して行きそうになった」
いっそ、そうすればよかったのに、とチョットマは思った。
「あの指揮官は!」
「ロクモンだと言った」
「むうう」