230 指揮官はンドペキ!
「退避します!」
くそ!
間に合わない!
今、洞窟から出陣しても、戦場に到着するには最低でも数十分はかかる。
「ちきしょう!」
それでも、ンドペキはフライングアイを引っ掴み、大広間に走った。
「レイチェル! ここにいろ!」
ンドペキ隊の戦闘準備はすでに整っていた。
「これより、政府軍の援護に向かう!」
そう叫んで、洞窟の入り口に突進した。
すでに、洞窟の入り口を塞いでいたカモフラージュは取り除かれ、パキトポークとスジーウォンの隊は、洞窟の外で命令を待っていた。
「隊列は無用! 戦場に急げ!」
「あああっ!」
イコマが叫んだ。
「新手が現れた! 南から!」
「どこの軍だ!」
「わからない! 北軍に砲撃を始めている! その数約五十!」
「よし!」
南軍!
何とか、持ちこたえろ!
ンドペキはがむしゃらに走った。
「北軍が後退を始めた!」
「南軍が隊形を立て直した! 三つの隊に編成を変えた!」
「北軍、いよいよ後退!」
南の空におびただしい閃光が走っていた。
「北軍を挟み撃ちにするぞ! 旗指物のない兵が北軍! ターゲットは北軍!」
ンドペキは号令を下した。
「いいか、よく聞け! このまま進めば、北軍の北西からアタックすることになる! 半ば敗走兵だ! がむしゃらに向かってくる恐れがある! 注意しろ!」
次々にイコマが戦況を伝えてくる。
「北軍は引いている。しかし、秩序は保たれている!」
「捨て駒を使っている! 本隊は無傷!」
「なおも撤退! しかし余裕のある引き際!」
「北軍、東北東に進路を転換!」
こちらの動きを察知したか!
東北東に向かうとなれば、追いつかない。
「北軍を追走する!」
ンドペキは叫んだ。
「どこの隊か不明だが、僚軍が接近! 敵と見誤るな!」
ンドペキ率いる隊と南軍は北軍を追っていったが、装備の水準は同レベル。
逃げている敵に追いつくことは難しい。
それでもンドペキは追っていった。
やがて南軍と並行して走ることになった。
その距離は縮まっていく。
約十キロ。
「並走する南軍からの攻撃に注意! 彼らは我々を敵とみなしている可能性あり!」
そう叫んでおいて、ンドペキは南軍に向かって、メッセージを放った。
「我々は、東部方面攻撃隊である! 指揮官はンドペキ! レイチェルの命を受けて、貴軍を援護する!」
応答は返って来ない。
クソ、やはりそうか!
ンドペキは唇を噛んだ。
「東部方面隊! 左方へ一旦離脱! 南軍と距離をおけ!」
南軍がこちらを味方だと認識していない以上、十キロ程度の距離で並走するのは危険が大きい。
側面から攻撃されると、犠牲は少なくない。
「左方二十キロ、森へ! そこで待機! 各隊で集結しろ!」
イコマからはもう報告は来なかった。
スピードについていけないのだ。
「イコマさん! 我々は一旦、追走を中止した! 後は頼む!」
「そのつもりだ!」
森の中で停止した。
たちまち隊員達が集まってくる。
「全員揃ったぞ!」
パキトポークとスジーウォンから、相次いでメッセージが届く。
「隊ごとに、その場で待機! イコマからの戦況報告を待つ!」
「了解!」
パキトポークとスジーウォンの隊は、それほど離れてはいない。
数キロ程度。
集めてもいいが、またすぐに進軍を始めるかもしれない。
もちろんンドペキもパキトポークらも、今や自らの探査で南北両軍の動きは手に取るようにわかっている。
しかし、目で見なければわからないことも多い。その表情や戦意、どちらを向いているかなど。
イコマの逐次報告はありがたい。
「南軍は北軍に追いつけない!」
イコマから報告が来た。
「しかし、北軍の兵が減っている!」
「依然として、北軍、東へ移動。南軍追尾中!」
「現在地、グリーンフィールド地方東端部。東部方面隊の現在位置から、すでに東に八十キロ!」
イコマはかなり上空を飛んで追いかけているといった。
「東へ百キロ地点に到達! ますます北軍の兵数減少!」
「南軍が攻撃しているのか!」
先ほどはあれほど華々しかった閃光が全く見えなくなっていた。
「発砲していない。両軍間の距離は十五キロほどある」
敵との距離が十五キロあれば、走りながらの砲撃ではまず当たらない。
狙いは正確でも、それが火薬弾であれ、量子弾であれ、弾が到達する前に回避されてしまうからだ。
「うむう」
ンドペキは唸った。
追うか、留まるか、戻るか。
「南軍の一部が戻り始めている! 東部方面隊が停止している方向へ!」
「その数は!」
「約五十! 北軍はもうほとんどいない!」
ンドペキは直ちに、隊員を集結させた。
「絶対に発砲するな!」
そして、南軍に再びメッセージを送った。
「我々は、東部方面攻撃隊である! 指揮官はンドペキ! ニューキーツ軍総司令官レイチェルの命を受けて、ここに陣を敷いている! 貴軍の指揮官と話したきことあり!」