228 レター
ンドペキは考えていた。
コリネルスとチョットマを街へ向かわせよう。
レイチェルの書簡を持たせ、正規軍と連絡を取り合う。
古式な通信手段だが、他に方法がない。
荒地軍の南下によって、事態打開のチャンスが失われてしまったからである。
レイチェルが、今その手紙を書いている。
見慣れない「手紙」という方法で、将軍達は信用してくれるだろうか。
コリネルスとチョットマも、ハクシュウの二の舞にならないか。
そうは思うが、接触の方法は彼らに任せるしかない。
「できました」
レイチェルが二通目となるレターを書き上げた。
「四名の将軍の誰に渡してもいいと思います。直接手渡すのがベストですが、それができなければ誰でもいいと思います」
「わかりました。内容を拝見してもよろしいか」
「もちろん」
ンドペキはチョットマを呼んだ。
「朗読させていただきます。彼らにも内容を知らせておきたいので」
「そうしてください」
三人の幹部には、今回の作戦をすでに伝えてある。
「皆、入ってくれ」
部屋の外に待たせてあった。
万一、チョットマの識字力が低レベルかもしれないので、読んで聞かせることにしたのだ。
レイチェルの前で、チョットマに恥をかかせてはかわいそうだ。
親展
親愛なるムーア将軍、ロクモン将軍、オルトラーナ将軍、ラーナキ将軍。
貴下も承知の通り、現在、反政府的なアンドロを主体とする軍が行動を開始している旨の情報があります。
また、現時点において、多くのパリサイドがニューキーツ上空にあり、我々と対峙するかのような態度を見せています。
ニューキーツは、きわめて不安定かつ危険な状態にあるといえます。
レイチェルの書簡は、そのような状況の整理から始まっていた。
長い文章だった。
レイチェル自身に起きた出来事と、これまでのいきさつが記されていた。
その中に、ハクシュウが政府軍あるいはアンドロ一派の軍との戦闘に巻き込まれ、何者かによって殺害されたことも記されてあった。
主文には、行動基準及び大まかな戦略が記されてあった。
作戦の詳細は四名の将軍の合議によること。
そして、洞窟の攻撃隊との合流後はンドペキ隊長を加え、彼が防衛軍及び攻撃隊すべてを率いること。
と指示され、最後には、パリサイドとの対応方法が示されていた。
私は、事態が許す限り、ンドペキ率いる東部方面攻撃隊と行動を共にします。
貴下らは、街の平穏維持、市民の安全、軍事、すべてにおいて、最善かつ迅速な対応をしてくれるものと信じています。
我らはニューキーツの市民と共にある!
オレゴーナ地方の洞窟にて
ワールド暦五百六十七年七月八日十六時
そして、レイチェルのサインがしたためてあった。
ンドペキは書簡に封をし、コリネルスに手渡した。
いつもは温厚なこの男の目が燃えているようだった。
ンドペキは、一歩下がったところで直立しているチョットマを見た。
彼女の目も強い光を放っていた。
ふたりに声を掛けてやりたかったが、気の利いた言葉はない。
その代わり、ふたりの肩を強く握った。
心の中で、チョットマには、おまえの出番が多すぎて悪いな、と声を掛けた。
そのとき、フライングアイが飛び込んできた。
「荒地軍の状況を報告します!」
「してくだい」
「二つの軍が対峙しています!」