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224 チョットマ、説明しろ!

 荒地軍の動きはない。

 伝令として飛んだパパもまだ帰ってこない。

 大広間に集まった隊員に、ンドペキが状況を説明していた。


 もし、荒地軍がアンドロ軍であれば、洞窟の通路を通り、エリアREFを経由して街へ帰還するという策。

 その場合、アヤの扱いが問題になる。

 一命を取り留めはしたものの、意識はまだ戻らず、絶対安静が必要な状態である。

 今は別室で、イコマのもう一つのフライングアイら数人が付き添っている。




 チョットマは、ンドペキの声を聞きながら、KC36632のことをぼんやりと考えていた。

 サリの姿をして現れたという。


 顔を借りるとか、姿を借りるとは、どういうことなのだろう。

 単に真似ているということなら、癪に障るが、まだ許せる。

 しかし、もし体を乗っ取ったというようなことなら許せないことだし、サリを元通りにしなければいけない。

 このことをンドペキはどう考えているのだろう。


 KC36632もさることながら、レイチェルにも腹を立てていた。

 ふがいなくもアンドロの策謀に嵌まり、エーエージーエスに閉じ込められた。

 それが今回の騒動の始まりではないか。


 その代償は大きかった。

 ハクシュウが死んだ。

 私たちの隊長が。

 いわば、レイチェルが原因ではないか。




 そのレイチェルが、遅れて大広間に入ってきた。

 どよめきがおきた。

 顔の包帯がとれていた。


 目の覚めるようなホワイティーアッシュの長い髪で、くりっとした目にエメラルドの瞳。

 控えめな鼻にふっくらとした頬。

 形の良い唇には、誰しも笑みを返すだろう微笑が浮かんでいる。


 チョットマも驚いた。

 似ている! なんとなく自分に!

 背格好や体型もそっくり。

 隊員達の中には、レイチェルとチョットマをあからさまに見比べている者もいた。

 サリに似ているという声も聞こえた。




 ハクシュウの死の原因となったレイチェル。

 チョットマは掴みかかりたい衝動を押さえ込んだ。


 レイチェルは平然と歩み寄ってきて、ンドペキの横に座る。

 フン。

 髪の色がぜんぜん違うじゃない。

 私の方が、もっとかわいい、と思うけど。



 正面にいるレイチェルに、ますます腹が立ってきた。

 場の中央に座っている。

 そして、ずっとンドペキの顔を見上げている。


 なんだ、あの女。

 ンドペキにべったりくっついて。

 癪に障る。

 くそ!

 チョットマは、なるべくンドペキを見ないようにした。

 レイチェルが目に入ってしまうから。




「チョットマ、説明しろ!」

 突然、ンドペキに指示されて、チョットマはうろたえた。

 聞いていなかった。


 何を説明する?

「え、あの」


 視線が集まっている。

 その中に、レイチェルの視線もある。


 フン!

 クソ、クソ、クソ!



 チョットマはびっくりした。

 自分の口から出た言葉に。


「なぜ、ここにレイチェルがいるんですか! ここは東部方面隊の作戦会議じゃないんですか!」




 うわ! まずいことを言ってしまった。

 でも、口から出た言葉は回収できない。

 たちまち顔がほてった。


 ど、どうしよう。


 何か言わなければ。


 しかし、その前に声が上がった。


「私もそう思う」

 シルバックだった。


 ンドペキ、ごめんなさい。

 どうか、上手く収めて。




 しかし、ンドペキは悠然としている。

 怖い目で睨んではいるが。


 チョットマは立ち上がった。

 謝らなければ。


 ところが、また別の声が上がった。


「俺もそう思うな。これじゃ、いつものように自由に発言できない」




 ようやくンドペキが声を出した。

「知っての通り、レイチェルはニューキーツの街の長官であり、軍の総司令官だ」

 大広間がざわついた。


 レイチェルが軍の最高指揮官だということは誰でも知っている。

 あえてンドペキがそう説明したことに反発するムードが漂った。



「そんなことは百も承知。我々はレイチェル閣下の指揮下にある。しかし、ここは東部方面隊の作戦会議。作戦の中身は我々で決める」

 そんな声が上がった。


「レイチェルは何も発言していない」

 ンドペキがそう言ったが、会場は収まりがつかなくなりかけていた。


「そこにおられるだけで、発言がしにくい。そう感じる隊員がいるとしたら、問題ではないか!」

 狼男。


「レイチェル閣下のご臨席、これは名誉な」

「そういう問題じゃないだろ。俺は俺たちの隊の自由な空気が好きだぞ。それが損なわれるなら」

「私も同感」

「しかもこの重大局面で議論を尽くせないのは、本末転倒」



「ハクシュウやプリブは、どう思うだろう!」


 その声に、


 さすがにこの発言は、乾坤一擲、止めの一撃。

 誰の心にも、染み入っていく言葉。


 大広間はクラシックコンサートの始まりの前のように、静まり返ってしまった。



 ま、ま、まずいことに……。

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