223 伝令の申し入れ
「なあ、スゥ」
「なに?」
「以前、洞窟を案内してくれたとき、おまえ、怖い話の例を挙げてたよな。瞑想の間で」
「うん」
「あれ、何と何だった?」
「え、どういうこと?」
水中の影に話しかけられたことを話した。
「JP01だったような気がして。で、そいつは、スゥの話を思い出せと言ったんだ」
「へえ」
「俺は思い出せなかった。結果として、間違った札を取ってしまった。なあ、スゥ。あの怖い話は、俺へのヒントだったのか?」
「さあ」
「さあ、って。もしヒントなら、頭の悪い俺にでもわかるように言ってくれないと」
「ヒントだなんて、私、知らなかったもの」
知らなかった、とは、また妙な言い方だ。
そうは思ったが、スゥを追求するのはやめよう。
もうどうでもいいことだ。
もうすぐ、洞窟に着く。
これからのことを考えなくてはいけない。
イコマが話しかけてきた。
「お話が」
「もう礼には及びませんよ」
「ありがとうございます。でも話したいのは、今後のことです」
「なんでしょう」
「荒地軍のことですが、レイチェルと話しました。彼女の話によると」
イコマは、自分が荒地軍の偵察に行きたいが、了解を欲しいという。
何か問題はあるだろうか。
考えてみたが、ここは判断を間違うととんでもないことになると直感が言う。
「敵軍であれば、悩むことはない。しかしもしあれがレイチェルの軍だったら、どうするのがいいと?」
イコマが、明快に答えた。
「合流を促します」
「合流?」
「私が、あれはレイチェルの軍だと申し上げたところで、あなた方はにわかには信じられないでしょう。ですので、相手の大将ひとりだけ洞窟に来てもらい、レイチェルと面会するよう、持ちかけます。その後は、合流してアンドロに対峙することになるでしょう」
「ふむ」
悪い話ではないように思った。
それなら、騙し討ちにあう可能性も少なそうだ。
隊員を割く必要もない。
しかし、ハクシュウの例がある。
「イコマさん、レイチェルの言うことを信じますか?」
フライングアイはこれにも即答した。
「私は、アヤを閉じ込めたのがレイチェルだと、ずっと思っていました。しかし、彼女も同じところに囚われてしまった。私の考えが間違っていたと知りました。ハクシュウの件は、レイチェルも憤っていました」
「フム」
「彼女は何の通信手段もなく、ハクシュウ隊が味方であることを自分の軍に伝えることができなかった」
「まあ、そうでしょうが」
「レイチェルをハクシュウ軍が捕らえていると、向こうは考えたのでしょう。私は、この見立ては正しいと思っています」
むらむらとした怒りがまた湧いてきた。
ハクシュウを殺した軍。
間違ったから仕方がない、では済まされない。
とはいえ、逆賊の汚名を着せられたまま、洞窟で潜み続けることはできない。
いずれ、街に帰らなければいけない。
たぶん、レイチェルを連れて。
「パッキーはどう思う?」
「俺はおまえに従う。しかし、言わせてもらえば、この人の言うことには一理ある。いつまでもこの状態でいいはずがない。ハクシュウとプリブの恨みは晴らしたいが、ここは抑えるしかないのではないか」
ンドペキは腹を決めた。
コリネルスやスジーウォンの意見を聞いていないが、彼らもパキトポークと同じことを言うだろう。
「では、お願いできますか。ただし、隊員は出せません。よろしいですか」
「よかった」
「いつ?」
「今、出発します。洞窟にいるもうひとつのフライングアイで。二時間もあれば、戻ってこれると思います」