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222 そんな話もどんどんして!

「パッキー! スゥ!」

 体を揺すって、ようやくパキトポークとスゥが目を開けた。


「ンドペキか」

「無事か」

「ああ。遅かったじゃないか」

「すまん」

「ホトキンは」

「話は後だ。ここを出よう。立てるか?」

「当たり前だ」


 パキトポークとスゥが飛び立った。


「揺らすなよ」

 先に扉から外に出たパキトポークが、後ろのスゥに声を掛ける。

 担架を気遣って、水平を保ったままゆっくりと扉の外に出た。


「替わろう」

 ンドペキはスゥに替わって担架の後ろを持った。

「ありがとう、ンドペキ。来てくれるって、信じてた」




 踊り場ではホトキンが相変わらず胡坐をかいて、背中を丸めて座り込んでいる。

 パキトポークは何も言わなかったが、スゥが声を掛けた。

「あなたがホトキンさん! ありがとう!」

 と、ホトキンに抱きついた。

「あなたが来てくれなかったら、私達」

 と、皴だらけの頬に口づけをした。


 ンドペキはびっくりした。

 人がキスするシーンなんて、かれこれ数百年も見ていない。

 そういう行為そのものも、忘れかけていた。


「助かりました! ありがとうございます!」

 ホトキンは、鼻を鳴らしただけだったが、スゥは深々と頭を下げ、またキスした。

「戻るぞ!」

 ホトキンがどうなろうと、知ったことではない。



「担架を水平に保て!」

 パキトポークが怒鳴る。

「了解だ」

 そろそろと階段を登った。


「いいんですか。放っておいて」

「構わん!」

 隊員も後ろをついてくる。

「もう、関わるな!」



 バード、いやアヤは生きている。

 それがンドペキの気持ちをより明るいものにしていた。

「さっさと洞窟に引き上げるぞ! ん、ああっ? パキトポーク、どうしたおまえの背中!」

 スゥの肩にとまったフライングアイが、何度も何度も礼を言った。





 敵軍は相変わらず動かない。

 洞窟が近づき、ンドペキはパキトポークといろいろな話をした。

 互いに、イコマを介して知っていることばかりだったが。


「俺達がなぜ、あそこで寝ていたか、わかるか?」

「疲れて眠っていたんだろ」

「それもある」

「他に?」

 パキトポークによれば、オーエンが言ったそうだ。


 あの施設は、様々な粒子を超高速で飛ばす実験装置。

 飛ばす位置も、その量や密度、飛ばす形状さえもコントロールできる。

 超高密度、しかも薄い層にして飛ばすと、どんなものでも真っ二つにすることができるという。


「自慢してやがった」

「で、姿勢を低くしてたんだな」

「そういうことだ。そうして横たわっていたら、どうにも我慢ができずに眠ってしまった」

「たいした度胸だな」

「度胸もクソも、あそこじゃなんの役にも立たんさ」

「フン、オーエンめ」



「ところで、いまさら聞くが、ホトキンはあれでよかったのか」

「忌々しいジジイだ」

 ンドペキは、あの謎掛けの部屋であったことを話した。


「おまえ、ホトキンの装置のことを知ってたんだろ」

 スゥに聞いた。

「え、なに?」

「木や鉄やセラミックが何を意味するか」

「何のこと?」

「嘘を言え!」


 簡単に説明したが、それでもスゥは反応しなかった。

 まあ、いい。ここで蒸し返すことでもない。



「あそこでチョットマが来てくれなかったら、俺は今頃どうなっていたか」

 パキトポークが陽気に言った。

「女を抱いてる夢でも見てりゃよかったのに」

「阿呆め! そんなのは、もう夢でも見るか。現実でも。おまえは、まだそんな……」


 スゥがいたことを思い出した。

「おい」


 しかし、当の本人は、

「いいよ! そんな話もどんどんして! 外に出られたことが実感できて、うれしいよ!」

 と、笑った。

「今、ここで! ンドペキに抱いて欲しいくらい!」とも。

「なっ」

「おい、俺じゃないのか? さっきまで一緒にいたのに!」

 パキトポークが怒鳴った。

 そして笑った。




 とびきりうれしい瞬間が、立て続けに起きる。

 あそこでチョットマに出会ったときもそう。

 ハクシュウは死んだ。

 そして俺達はとんでもない状況にある。

 それでも、こんなに笑い合える。

 苦あれば楽あり。

 降り止まない雨は無い。

 生きていく喜びや楽しみ。 

 使い古された言葉を思い出した気がした。


 スゥが、また「ありがとう!」と叫んだ。

 その喜びに満ちた声が、心を震わせた。

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