220 誰にも任せられない
ンドペキは地上に出た。
この仕事は誰にも任せられない。
コリネルスやスジーウォンは、荒地軍の攻撃に対応しなくてはいけない。
彼らが立てた作戦だ。
自分が肩代わりして上手くいくとは限らない。
お供にチョットマを連れて行きたかったが、彼女には、万一のとき、街への通路を案内するという大切な任務がある。
久しぶりに大気の匂い、森の香りを思い切り胸に吸い込んだ。
攻撃要員ひとり、通信要員ひとり、医務官ひとりを連れて、エーエージーエスの入り口に向かう。
背中のホトキンは、オーエンの元へ連れて行くことに了解する様子はない。
ただ、嫌ではないのだろう。
チョットマから聞いたライラの言葉を伝えると、かすかに笑ったように唇を歪ませた。
幸い、KC36632が伝えてくれた荒地軍の宿営地の位置は、エーエージーエスの入り口から少し離れている。
森の中に潜み、荒地軍が洞窟に向かって移動を始めてから、その背後を回って入り口に向かえばいい。
見上げると、パリサイドが数人、夜空を舞っていた。
出発前に想定していた地点に到着した。
後はここで、荒地軍が移動を始めるのを待てばよい。
彼らが当方の存在に気づいたとしても、こちらはわずか四人。
様子を探りに来るかもしれないが、本隊は洞窟に向かうだろう。
数名が相手なら、勝つ見込みもあるし、なければ逃げればいいだけだ。
その後、エーエージーエスに向かえばいい。
「ンドペキ、ちょっと休んでください。荒地軍は私が監視していますから」
隊員が気遣ってくれる。
「あなたは、ここ二日、まともに休んでいない」
ンドペキはありがたく、目を瞑った。
木片は夢か……。
本当に、楽しいピクニックの夢でも見たいものだ。
しかし、まぶたになにが浮かんでくるわけでもない。
たちまち、夢も見ない深い眠りに落ちた。
「起きてください」
「おっ」
ンドペキはたちまち目が覚めた。
「動いたか!」
「それが、様子が変です」
「ん?」
「荒地軍が動かないのです」
時刻は、朝の九時になっていた。
「なに。もうこんな時間か」
かれこれ、四時間も眠っていたことになる。
「あ、ホトキンは?」
「大丈夫です。あなたの背中で眠っておられます」
この時刻になっても荒地軍が動かないのはおかしい。
時間をかけても、メリットはないはず。
むしろ洞窟の隊に、防衛準備の時間を与えるだけだ。
兵糧作戦を取るつもりだろうか。
「こちらに感づいた様子は?」
「それはわかりませんが、誰一人向かってきません」
ンドペキは決断した。
エーエージーエスの入り口に向かおう。
荒地軍に近づくことになるが、チューブの中で待っているであろうパキトポークとスゥをこれ以上、待たせるわけにはいかない。
それに、ホトキンをいつまでも背負子に縛り付けておくこともできない。
慎重に移動を始めた。
空には相変わらず数人のパリサイド。
そういえば、会談の日は?
いつだろう。よくわからなくなっていた。
シリー川は、今、どうなっているのだろう。
ンドペキは、ホトキンを連れ帰ったとき、レイチェルの部屋に顔を見せ忘れたことに気がついた。
まずかったかな、と思ったが、後の祭だ。