219 関係ないはず、ないでしょう!
「首謀者は? なんという名ですか?」
「ニューキーツの、ということですか?」
「そうです」
「それは……」
レイチェルが言いよどんでいる。
包帯で表情が見えないことは辛いが、目が明らかに迷っている。
何を迷うことがある。
そう思ったが、レイチェルはしばらく間を置いただけで、きっぱりと言った。
「治安省の前長官、タールツーという人物です」
「失礼な言い方ですが、ではなぜ、手を打たなかったのです?」
「彼女が自分の部隊を持っていることが判明したのは、つい先日のことです」
「あ、女性ですか」
「そうです。その証拠を掴みましたので、すぐにでもその中心人物数名を拘束するつもりでいました。しかし、間に合わなかった。パリサイドが来てしまったのです」
「タールツーというのは、どんな人物なのでしょう?」
「冷徹、そして優秀。組織を纏め上げる能力も高い。加えて美貌の持ち主で、極めて健康です。ただ、かなりな高齢です」
復讐。
そんな気持ちがイコマを捉えた。
「普段はどこに?」
「いえ、それが……、不明なのです」
レイチェルが不安な目をした。
「人前に姿を現さないのです。長官級の会議にも代理ばかりを立てるような人で……」
イコマは最後の質問に取り掛かった。
チョットマのために聞いておきたいこと。
「最後に」
「はい」
「サリという女性を覚えておられるでしょうか」
「……」
イコマは、サリが消えたいきさつを話した。
「サリは消去されたのか、あるいはどこかで再生されるのか。これは、あなたのサインがないとできないことですね」
レイチェルが目を閉じた。
「それはお答えできません。それにあなたにも、東部方面隊の皆さんにも関係のないことです」
と、それまで黙って聞いていた女性隊員が噛み付いた。
「関係ないはず、ないでしょう!」
レイチェルはびくっとして、ジルを見た。
そして、すぐに失言に気づいた。
「すみません。彼女はあなた方の一員でしたね。ですが、理由は言えません」
「再生されるのですか。あるいはもう再生しているのですか」
重ねて聞いた。
「それも、お答えできません」
「チョットマがとても気にしていて、悲しんでいるのです」
「関係ありません」
今までの穏やかな話しぶりと違って、レイチェルの態度はにべもなかった。
そしてやはり、チョットマとはだれか、とは聞かなかった。