217 旗色はどちらにありや
レイチェルの解説によれば、荒地軍はアンドロ軍の可能性がある、となる。
その場合、正規軍はアンドロ軍が行動を開始したことを把握していることにもなる。
ならば、正規軍が、まだ現れないのは、なぜだ。
街の安全の確保が整っていないからなのか。
何らかの理由で手をこまねいているのか。
はたまた、すでに荒地軍の後方に展開しているのか。
あるいは、荒地軍はアンドロ軍ではなく、正規の防衛軍なのか。
可能性を列挙していても埒があかない。
最も重要なのは、今、洞窟の近くにいる軍の所属。
旗色はどちらにありや、だ。
敵か味方かわからなくては、動きがとれない。
「あの、イコマさん。あなたからもンドペキに頼んでいただけませんでしょうか」
レイチェルはンドペキにこれらを解説し、自分が指令を出すことを提案したという。
「私がここを出て、確認して参ります。そしてもし敵であれば、街から正規軍をこちらに向かわせ、挟み撃ちにすることができます」
もちろんイコマも、そのことを考えないではない。
ンドペキからも、レイチェルの希望だが断っていると聞いている。
「お気持ちはよくわかります。しかし、あなたをひとりで行かせるわけにはいかないでしょう。あなたを危険に晒すわけにはいかないですし、失礼ですが、あなたひとりで街へ帰れるはずもありません」
「……」
「それとも、街の防衛軍との通信手段をお持ちなのでしょうか」
唇を噛み締めたレイチェル。
「傷のまだ癒えないあなたを運び、護衛するにはかなりの数の隊員を割かなければいけない。しかも、もしあなたを守れなかった場合のことを考えてみてください」
これ以上言う必要はないだろう。
では、使者を送るのはどうか。
イコマのこの案にも、ンドペキは首を縦に振らなかった。
ハクシュウが殺されている、と答えるのみだった。
それも理解できる。
ハクシュウが殺され、チョットマやスミソは砲撃を受けている。
荒地軍は敵。
しかも、数の上で圧倒的に不利。
使者をのこのこ向かわせるのは、降伏の印以外の何物でもない。
ンドペキ達からすれば、もはやありえない選択。
それでも使者を送ったとして、相手がアンドロ軍か、街の正規軍か、どう見分ければいいのか。
万一、騙されてレイチェルを敵の手に渡してしまうことにならないか。
「敵の軍か、あなたの軍か、どうすれば見分けがつくのでしょう」
明確に見分けがつくなら、事態解決に何らかの方法があるだろう。
「それは難しいご質問です。私は、相手を見たことがありませんので、どんな装備なのか、何か印をつけているのかもわかりません。正規の防衛軍はトカゲのバッジを付けていますが、それとて彼らが真似をしておれば見分けはつかないと思います」
ハクシュウを倒した軍は、トカゲのバッジを付けていただろうか。
遠くからでは、しかもフライングアイの視力では視認できなかった。
「防衛軍の将軍の名は挙げることができます。彼らは皆、マトないしメルキトです。アンドロの一派に鞍替えするとは思えません」
レイチェルが、四つの名を挙げた。
イコマは、自分が確かめにいく、あるいは使者となるしかない、と思い始めていた。
しかし、ンドペキにまず話を通さねばならない。
ここでレイチェルに許可を得るわけにはいかなかった。
話題を変えよう。
もうひとつの本題に。