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212 でも、見直した?

 チョットマがライラという老婆から聞いた話は、ンドペキを震え上がらせた。


 うちの亭主は、毎日のように、そこに通うのさ。

 もうだれも通らないのに。

 洞窟の中で旅人を待ち伏せ、謎掛けをする。

 木片を取るか、金属片を取るか、セラミック片を取るか。



 木片は「夢」、金属片は「血」、セラミック片は「時」

 さあ、どれかを選べと。


 木を取れば、ひとつの通路が現れる。

 しかし、その通路の先には何もない。

 精神を狂わせるバーチャル生成装置に絡め捕られるだけ。

 逃げ出すことはできない。

 ふかふかの干し草の寝床に潜り込むしかない。

 そしてあらゆる悪夢は現実のものとなる。

 干し草と見えた無数の人骨に埋もれて。


 セラミック片を取ると現れる通路。

 どんどん若くなっていくと思い込む装置が待ち構えている。

 ソファに座り、チェアに座るたびに思い込む。

 自分がもう少し若い年齢だと。


 そして子供になり、いずれ赤ん坊となって、消える。

 意識が途絶えるのだ。

 ただ、そこまで生きている人はいない。


 金属片だけが、本当の通路を開く。

 エリアREFに通じる道が。




「あの通路に入れば、どうなってたんだ?」

「たぶん、バーチャル空間の中で、眠ったら最後、恐ろしい夢から覚めることができなくなるんじゃない?」

「いい夢を見たら?」

「私と楽しいピクニックに行く夢、見る自信ある?」

「ない」

「ちぇ」


「きさま!」

 ンドペキはホトキンに掴みかかった。

「殺しちゃだめ!」

「わかってる! エーエージーエスに連れて行くんだろ! その前に!」

 装甲を付けた拳で軽く小突くと、ホトキンはまた伸びてしまった。


「あ、そか、この方が運びやすいか」

「そうともさ!」




「武器は持ってないな。よし、縛りあげよう。背負子の上で暴れられても困る。ワイヤーしかないが、我慢してもらうしかあるまい」


 縛り上げている間に、チョットマが直前の状況を話してくれた。



「プリブの部屋の前を通りすぎて、ライラに言われたとおりに、どんどん進むと、ここに着いた。突き当たりは水の壁になってて、妙だなと思った」


 バーチャルだと思って、その水の中に手を突っ込んでみたが、さすがに足を踏み入れる勇気はない。

 どこかに生成装置があるはず。

 通路の壁をまさぐっていくと、カムフラージュされた岩壁があった。



「行ってみるしかない。そう思って入ってみたら」

 その先にホトキンがいたのだという。


「この部屋の真ん中に座って、モニターを見てた。なので、事情を話したの。エーエージーエスのオーエンが会いたがってるって」

「おう、そしたら?」

「かなり驚いたみたい」

「行くと言ったのか」

「ううん。目の前のモニターに人影があるのが見えたのよ」

「ああ」



「私は正解の鉄片がどこにあるのかわからなかったけど、万一、その人が木片やセラミック片を取ったら大変だと思って、装置を止めるようにホトキンに言った」


 でも、ホトキンは、こんな楽しみをやめられるか、久しぶりなんだぞって。

 聞く耳を持たなかった。




「これは私がどうにかしなくちゃ。でも、装置の止め方が分からない」


 装置を破壊したら、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 しかたなくホトキンを思い切り殴りつけ、気を失ったことを確かめると、水壁のところに戻った。


「老人を殴りつけるのは、気が引けたけど。ライラの旦那様だし」



 水壁は依然として通路を覆っている。

「これを消す方法がないなら、抜けていくしかないなと」



「で、めでたく俺の前に出てきてくれたというわけか」

「そう。もう、めちゃくちゃ驚いたよ。方向違いのところに飛び降りようとしているのがンドペキだったから」

「ああ、もう本当に、チョットマがいてくれて……」


 チョットマがこんなにいとおしい娘だったとは。

 ンドペキは初めてそう思った。



「いてくれて?」

「ありがとう」

「それだけ? でも、見直した?」

「もちろん。それにしても」

「私でよかった?」

「ああ、そうでなきゃ、誰かを殺してしまうところだった」

「だね。いくら私でも、あんな至近距離で撃たれたら、ヤバかったよ」

「すまない」




 ホトキンが気絶したままであることを確かめた。


「ワイヤー、きつすぎない? 腕に食い込んでるよ。皮膚が切れるかも」

「構うものか」



「ねえ、ンドペキ。もう、死にたいなんて思わなくなった?」

「ああ」


「よかった! でもさ」

「ん?」

「私を見て、わからなかった?」

「ま」

「いったい、誰と見間違えたのかな」

「すまん。正直にいうと、JP01だと思った」

「はああ?」

「すまない」

「何がどうなっているのやら。ンドペキは」

「どうかしてるんだ。俺、最近、自信なくなってきた」

「なにが?」

「記憶量が。おまえ以下になったかも」

「あ、失礼なんだ!」




「さあ、行こう。その前に、この悪魔の装置を破壊してしまおう。ん? どうした?」


「ハクシュウとプリブが……」

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