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208 それぞれの夜

その頃、イコマの思考本体は、ホトキンのことを調べていた。


 エーエージーエスのひとつの試験装置の技術責任者ということがわかったおかげで、個人を特定できた。

 ライラとの間に娘が一人いる。

 生死は不明。


 オーエンのことも少しわかった。

 妻がいたが、こちらも近況はわからなかった。


 エーエージーエスのことは詳しく分かってきた。

 ニューキーツの街はエーエージーエスの一つのリングの上に建設されたともいえる。

 出入口は百以上ある。スゥに案内されて入った出入口は、小さなメンテナンス通路の一つにすぎず、MT二十九号孔というらしい。

 エーエージーエスの管理諸室やメインの出入口は、政府建物の北エリアの地下に現存するが、封鎖されて久しい。

 

 実験施設としての本来の機能は停止されたが、他の用途で使用されていることも分かった。

 監獄としての使途はイレギュラーなもので、むしろ、アンドロ達の次元の行き来に重要な役割を果たしているらしい。

 老朽化はしているものの、まだ十分にその力を発揮できるらしい。





 その頃、チューブすなわちエーエージーエスの中では、パキトポークとスゥが入り口に到達していた。

 相変わらず、呼べど叫べど、オーエンは応えない。

 背負子のバード、つまりアヤはまだ生きていたが、非常に危険な状態であることに変わりはない。

 緊迫した状態だが、如何ともしがたい。


 緊張を解そうとパキトポークは、なんどもスゥに話しかけるのだが、話は弾まない。

 スゥは返事はするものの、曖昧な言葉を返してくるだけで、すぐに黙り込んでしまう。


 ふたりは、チューブの底に横になった。

 パキトポークは絶望はしていなかったが、ある種の覚悟ができつつあった。





 コリネルスは、洞窟入り口の周囲に、多くのトラップを仕掛け終えていた。

 篭城を覚悟で、入り口を塞ぎ、そこにも罠を仕掛けた。

 入り口から大広間に至る通路にも。


 ありあわせの資材で急造したトラップ。

 効果は小さいかもしれないが、それなりに敵の兵力を削ぐことはできるだろう。

 そして、最後の砦となるであろう瞑想の間に、すべての物資を移動させた。





 スジーウォンは戦闘に備え、睡眠をとっていた。

 戦闘の中心となる隊員たちにも休息を与えている。


 洞窟の入り口に荒地軍が殺到してからの作戦は、いろいろなパターンに分けて検討済み。

 それを隊員たちにもきちんと伝えてある。


 人を撃つことになるかもしれないことを考えた。

 そんなつもりで兵士になったわけではない、と思った。

 自分にできるだろうか。


 戦争とは、こんな状況に追い込まれて、やむなく突入していくものなのか。

 今回の場合は、血迷った軍部、あるいは独裁者がいるわけでもない。

 それなのに。


 自分達は、どこかで判断を間違ったのか。

 答はまだ見えない。

 正しい答が欲しい。

 そう思いながら眠りについた。





 レイチェルは、この洞窟から出られないと悟り、レターをしたためた。


 そこには、自分がこの洞窟に保護されていること、そして防衛軍はアンドロの動きを注視し、万一の場合には街を死守せよと記した。


 そしてコリネルスに、街へのその伝言を頼み込んだ。 

 しかし、そんな余裕はないと断られると、医務官に見守られ、ベッドにもぐりこんで泣いた。

 自分の非力さを恨み、そしてバードやンドペキ、チョットマのことを思いながら。





 ハワードはレイチェルを探して歩き回っていたが、無力を思い知らされるだけだった。

 ハクシュウが再生者リストに掲載されていることを知り、イコマに伝えた。

 東部方面攻撃隊が立て篭もる洞窟は耳にしたことがあるとも伝えた。

 市民が知っているほどだから、当然、軍は把握しているとも。


 しかし、相変わらずイコマに信用されていない、そう感じただけだった。





 その頃、サリが目覚めていた。


 目の前には、「安静」と記されたボードがあり、その下には「警告:許可があるまで、体のどの部位も動かしてはいけません。特に頭部を動かすと、あなたの記憶量と思考力に重大な影響を及ぼすことがあります」と記載されていた。


 ああ、これが再生されるということなのか、と思った。


 そして、どこで死んだのか、どんなことをしていたのかも思い出せないことに気がついた。

 ただ、頭部を動かせないことで、ベッドの脇に架けられた札に、自分のものではないアクセスIDや名前が記されていることには気づかなかった。





 チョットマはライラの話が終わるのを待っていた。


 礼を言わなくてはいけない。

 話は長い。

 内容は聞こえない。いや、聞かないようにしていた。


 前にここを通ったときには気付かなかったものが目に入った。

「SANTNORE」と刻まれた銘版が男の頭上に掲げられていた。



 ライラが立ち上がった。


「ホトキンは、見ればすぐにわかる。真っ青な作業服を今も着てる。胸にはエーエージーエスのマークが縫いこんである」

「わかりました! 本当にありがとうございました!」


「首尾よく、あいつをエーエージーエスに連れて行ってくれたら、情報料は要らないよ。あれはふたつとも返すから、取りにおいで」


「ありがとうございます!」

「さあ、お行き。あんたをつけてきた奴は、ここから先には絶対に行けないから、その点は安心していいよ」


 ライラがたくし上げたカーテンの先は、まさにプリブの部屋に通じる通路だった。






 そして、ンドペキは木片を睨んでいた。

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