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207 あたしの亭主

 チョットマのしゃっくりは、いっぺんに止まった。


「ちょ、ちょ、ちょっとそれは!」

「嫌なら、帰りな」

「そんな!」


「お金に換えりゃ、二束三文だろ。あたしが教えてやらにゃ、あんたはその価値もわかっていなかったんだろ」

「でも」


「安いもんじゃないか」


 すでにライラは立ち上がっている。

 また、帰れとばかりに、ドアノブに手を掛けた。



「ま、待ってください! この布は私のものじゃないんです! 相談します!」


 チョットマは、パパに聞こうと思った。

 しかし、パパの方から、先に返事が来た。


「渡しなさい。それこそ、角を矯めて牛を殺すだ」


 意味がわからなかったが、手裏剣とて、惜しくはない。

 形見が活かされるのなら、ハクシュウも喜んでくれるだろう。




 チョットマは布と手裏剣を差し出した。


「よし。いい子だ。さあ、行こう。案内する。かなり遠いから覚悟しな」

 言うが早いか、ライラは扉を開けた。





 一旦、上層階のホールに戻り、中央の通路をとる。

 プリブの部屋のあるエリアへ向かう。


 布を被っていないからなのか、あれだけ聞こえていた呻き声などは全く聞こえない。

 さすがに深夜だからなのだろうか。

 ライラが足早に前を行く。


「亭主。あたしの」


 ライラが唐突に言った。


「あっ、そうなんですか!」


 思わずチョットマは、顔をほころばせた。

 オーエンの元へ連れていく条件の難易度がぐんと下がる。

 ような気がする。

 しかし、ぬか喜びは禁物、と顔を引き締めた。



「エーエージーエスのひとつの試験装置の技術責任者だった」


 速足で歩きながら、ポツリポツリと話し出した。


 エーエージーエスが運転を停止してから、あいつはおかしくなっちまった。

 生きる目的がなくなってしまったんだ。


 妙な趣味にのめり込んでね。

 旅人をたぶらかすことが面白くなってしまった。

 罠を張ってね。謎掛けをするんだ。


 数百年前は、まだこのあたりには、街道が通っていた。

 今みたいに飛空挺だけが移動手段じゃなかった時分のこと。

 街のそばにはマシンがうろついている。

 それを避けるために、旅人は地下の洞窟を通ったものさ。



 チョットマは、口を挟むのは失礼だと思ったが、思わず声が出てしまった。

「その洞窟って」

「そうだろうよ。レイチェルがあんた達に押し込められている洞窟だろうよ」




 プリブを見失って泣きそうになったところを通り過ぎた。

 ライラの物語は続く。



 あたしゃ、いい加減、やめて欲しいんだよ。

 あいつは狂ってしまった。

 ここ二百年間、もう、誰も通りやしない。

 なのにあいつは毎日そこで、人が来るのを待ち続けている。


 だから、今夜あんたが持ってきた話。あたしにとっても渡りに船。

 あいつをエーエージーエスに連れて行ってやっておくれ。

 必要とされているなら、あいつも正気を取り戻すだろうさ。



 立ち止まった。


 荷物を預けた、門番の部屋だった。

 ローブをまとった鉤爪のコウモリ男が蹲っていた。


「あたしの案内はここまで」



 え?


 この門番のコウモリ男がホトキン?

 それなら、プリブは知っていたんじゃないか。

 名前は知らなかった、ということ?


「あの」


「この先、あたしゃ、行ったことがない。あいつが言うには、道なりに行けば迷うことはない」


 ライラがしゃがみこみ、男に小声で話しかけた。

 誰も通してはいけない、と念を押している。



 門番はホトキンではない。

 この先のどこかにホトキンがいるのだ。

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