206 そんなちっぽけなことで、人の白黒はついてしまうのかい!
「う、ヒック、そう、そうです」
チョットマは鼻をすすりながら、なんとか声を出した。
「ンドペキがそう、ヒッ、言って、ました」
パパも口添えをしてくれる。
「ということは、レイチェルは今、スゥの洞窟にいると思います。そして、ハクシュウの隊がレイチェルを守っているものと思われます」
ライラがどちらの見方なのかわからないが、ここは信じるしかない。
「ハク、ハクシュウは、う、軍に襲、ヒッ、われて、死んで、しまった、ん、です」
何を話せばいいのか、わからなかった。
ライラがなにを聞けば納得してくれるのかわからなかった。
「プリ、ヴは、ヘルシード、の前で、イック、殺され、シュン、ました」
後、何を話せば……。
「軍が」
パパが後を引き取ってくれた。
「かなりの兵数が、行動を開始しています。エーエージーエスの中でも、北の森でも。そしてハクシュウを襲った軍。プリブとチョットマを襲った者。いずれも、政府軍ではないようです。ようだと言ったのは、レイチェルが差し向けたとは思えないからです」
ライラが口を開いた。
「おたく、どうしてそれがわかるんだい。レイチェルを救出すべく行動している軍じゃないって、どうしてわかるんだい」
チョットマは虚を突かれた。
「えっ、でも、ハク、シュウが」
「レイチェルを人質に、洞窟に立て篭もっている反逆者。ハクシュウはそうだろ」
「ち、違います!」
「軍はそうとるだろうよ」
「そ、そんな!」
「え、イコマさんとやら、あんた、バードという娘かわいさに、まともに頭も働かなくなったのかい。知能の人、アギが」
「えっ、でも、正規、シュン、軍の、記章を、ウック、つけて、なかったって」
「フン、チョットマ。あんたらの考えは、そんなちっぽけなことで左右されちまうのかい。バッジがあるかないかみたいなことで、人の白黒はついてしまうのかい! え! そんなものなのかい!」
ライラの言うことは、もっともなことだった。
外面に現れた小さな印。
そんなことで、人は判断できない。
立場が変われば、そんなまやかしの正義はいかようにも移り変わる。
「フン。この街のおん大将が敵に捕らわれて、みっともなくて正規軍が記章なんてつけて、行動できるか!」
チョットマもパパも言葉がなかった。
「それに、あのバッジは特殊なメタルでできている。特殊なものは特殊な方法で溶けちまう、ってこともあるんだよ!」
「じゃ、あれは、政府の、シュン」
「わかりゃしないさ! あたしゃ、その軍がどっちのものか、興味もない!」
ライラの声音が急にやさしくなった。
「ただ、それとホトキンのことは話は別。ホトキンの居場所は教えてやる。前金でいただくよ」
情報料は、恐ろしく高額だと、プリブから聞いていた。
かなりの持ち合わせはある。
現金で。
しかし、桁が違うかもしれない。
しかも、ライラを怒らせてしまった後。
チョットマは、思わず唾を飲み込んだ。
「その布地と、手裏剣をいただこう」
「!!」