199 少しは頭を使いな
しかし、ようやく納得したのか、あるいは魔力が十分に乗り移ったとでも思ったのか、
「よし」と、布をきちんと折りたたみ、チョットマの膝に返してきた。
チョットマはほっとして、いよいよ、聞こうと思った。
「あの、ホ」
「で、さっきの金属板」
とまた、遮られてしまった。
「あれは、どこで手に入れたんだい」
これにも応えにくい。
ハクシュウにもらったものだが、そう言えばライラは、ハクシュウはどうしている、などと聞いてくるような気がする。
「さっき、形見だとか」
地獄耳とはこういうことをいう。
「それは……」
ライラが畳み掛けてくる。
「名前はとにかく、あんたはどう見ても日本人じゃない」
「は?」
話の展開についていけない。
「あれは、古代のニッポン国の武器だよ」
「はあ?」
「忍びが使った手裏剣というものに違いない」
「そうなんですか……」
「一度、手にとって拝んでみたいものだ。そんなに古い武器なら、きっと魔法がかかっているに違いない」
「……」
もしかするとライラは魔法使いなのかも。
チョットマはそう思ってしまいかねない自分を諌めた。
今の時代に魔法使いなんて。
「あの」
「ん、なんだい。後であれに触らせてくれるのか」
「あっ、ハイ」
と、応えるしかない。
さあ、次は自分の番。
チョットマは身を乗り出した。
「ホトキンという男を知りませんか」
早口に、単刀直入に聞いた。
ライラの顔色が変わったことが分かった。
そこに憤怒の表情が混じっていることにも気づいた。
チョットマはたじろいだが、じっと答えを待った。
ライラがまた酒をあおり、カウンターに滑らせた。
「さあ、帰ろうか」と立ち上がる。
チョットマはあわてた。
あわてると同時に、腹が立ってきた。
「待ってください。おばあさん、魔法使いなんでしょ。知らないことはないっていう」
ライラは立ったまま、チョットマを見上げた。
思っていた以上に背丈の低い女性だった。
座っているときには気づかなかったが、腰も九十度以上曲がっている。
魔法使いが笑い出す。
「魔法使いのおばあさん! あたしが! これはとんだ人違い! あたしゃ、魔法使いでもなんでもないさ! スゥは、もしかするとそうかもしれんがね!」
無駄話に付き合ってはいられない。
チョットマは半ば叫ぶように言った。
「教えてください! どこに行ったらホトキンに会えるか!」
「あたしゃ、帰るよ。飲みすぎたよ」
と、背中を向ける。
「ちょっと待って!」
ライラが顔を寄せてきた。
「魔物のお嬢ちゃん、少しは頭を使いな」